「父の再婚相手、ノゾミの母親だけど、その人は私にもとても優しくしてくれた。でもノゾミが生まれてから、なんだか疎外感を抱いて、本当の母親に可愛がられるノゾミが羨ましくて仕方がなかった。別に意地悪をされたとかはなかったのよ。私にも充分愛情を注いでくれたわ。ノゾミの名前も私が名づけてって言われて、私がつけたの。私がユメだし、次はやっぱりノゾミでしょ、苗字が叶谷なだけに」

 思わず俺も納得して頷いていた。

「父も私の本当の母親と結婚していた時よりも幸せそうで、念願の店も持つこともでき、ちなみにあの店のデザインは継母がしたの。イラストレーター兼デザイナーで、割とメディアにも取り上げられる人なの。何もかもがパーフェクトでさ、何も苦労なくノゾミは生まれて、幸せに暮らし、父親の姿を見て将来自分もパ ティシエになるって夢持ってさ、その父の店の名前もフランス語の『希望』でしょ、自分と同じ名前だから一人で使命感持っちゃってさ、いつもお菓子作りには必死なの。それで勉強もできて、なんか訳もなく時々嫉妬しちゃうの」

 自虐的に笑いながら、またコーヒーを一口すすっていた。
 俺はそれが自分と大いに重なり、知らずと共感していた。

 それに気を取られて口に入れたハンバーグを中途半端にごくりと飲み込んだ時、思わずむせて咳き込んでしまった。

「あら、天見君、大丈夫? ほら水飲んで」
「げぼっ、げほっ、あっ、大丈夫です。すみません」

「ごめんなさいね、急に変な話になって」
「いえ、俺、その気持ちとても理解できます。俺もそうなんです」

 この流れになると、言わずにはいられない。
 俺も異母兄弟がいる事を話した。

 最初はびっくりして聞いていたが、ユメは最後にニコッと微笑んだ。

「そっか、私達なんか似てるのかもね」

 お互い、長年苦しんでいた憑き物が取れたような、そんなすっきりした顔で見ていたと思う。
 同じ境遇の中、ユメと俺はすっかり打ち解けた。

 無理やり巻き込まれてしまったが、結果的にはユメを通じて自分を客観的に振り返る事に繋がった。
 これもまたノゾミにしてやられたような気分だった。
 悪い気はせず、ただ目の前の食事が美味しいと思えた。

「天見君、美味しそうに食べるね。私もなんか食べようかな。父のケーキを一杯食べた後だから、甘いものはもういいやって思ってたけど、また食べたくなってきた。きっと体がもっとスィート(優しく)になれって言ってるんだろうね。天見君もデザートどう?」

「それじゃ俺もお願いします」

 俺たちは苺パフェを頼んだ。
 それが目の前に出て来た時、俺は苺のように顔を真っ赤にしたノゾミを思い出さずにはいられなかった。