「天見君、色々とありがとうね」
「俺こそ、ごちそうになってますから。得してます」

 さりげなくなんでもない事のように俺なりに気を遣ってみた。

「天見君はほんといい子ね。見かけもいいし、頭もいいし」
「いえ、そんな」

 俺は照れくさくハンバーグを口に頬張り、もぐもぐとしていた。

「ノゾミの事よろしくね。天見君みたいな人にノゾミを理解してもらえて嬉しいわ。あの子、消極的で不器用だから、いつも損してるような子なの。自分よりも人の事を優先して、余計な気を遣い過ぎて空回りしちゃうタイプなの」

「でも、結構踏ん張って立ち向かってはいるみたいですけど」

「常に人の顔色ばかり窺ってるから、なんとかしようとするんだろうけど、そこが却ってうっとうしかったりもする。特に私みたいな者は、ついそれが顔に出ちゃってさ、ついノゾミには意地悪くなっちゃうんだ」

「ノゾミもそれ充分わかってましたよ。お姉ちゃんが怖かったって。でも辛かった時親身になって慰めてくれて、本当は優しいって言ってました」

「えっ? 親身になって慰めた? いつの話だろう。私そんな事したかな。意地の悪い態度取った事は良く覚えてるけど」

 コーヒーを一口すすり、ユメは視線を虚空に向けて思い出そうとしていた。
 そんなことはどうでもよく、俺は引き続き食事を続けていた。

 だが次の言葉で俺の手の動きが止まった。

「そんな事言うのも不思議だけど、下北が既婚者だっていう事もノゾミが言ったんだよね。今日はなんか後ろから抱きついてきたし、なんだかいつものノゾミじゃなかった」
「いつものノゾミじゃない?」

「ノゾミは普段大人しく黙ってるような子で、私とは常に距離があった。それは全て私が悪かったんだけど。私がノゾミに嫉妬してたから」
「嫉妬?」

 申し分ない外見で妹より姉の方が絶対目立つのに、姉が妹を嫉妬する理由──この時はまだ不思議に思っていた。

「実は、私とノゾミは異母姉妹なの」
「えっ?」

「私の本来の母と父が離婚して、私は父に引き取られ、というより母に捨てられたの。あの人、父を放っておいて他の男に走ったから。それでその後、父が再婚して、ノゾミが出来たという訳」

 なんだかまた被る話に、俺は飯を食うのも忘れ聞き入った。