「天見、ちょっといいか」
「またですか。先生もしつこいですね」

「は? なんのことだ?」
「だから、進路のことでしょ」

「ああ、そうだが、しつこいって、大げさな」

 先生は納得いかなさそうに、眉間に皺を寄せていた。

「だけど俺はもう決めたんです。前にも言いましたが、俺は働きたいんです」

 先日、進路希望の紙を配られ、俺は就職を選んだ。
 先生はそれを考え直せと言ってくる。

 もうこれで二回目だった。
 俺の叫びが苛立ちに聞こえたのか、先生は怯みながら遠慮がちに訊いてきた。

「……家庭の事情が原因なのか?」

 母子家庭で貧困。

 先生の意味するのはそれだった。
 また同じことを聞いてくるから、イライラしてしまった。

「とにかく、一刻も早く社会に出て、働きたいだけです」

「天見の気持ちもわからないではないが、お前なら国立大を目指せるし、奨学金だって借りられる」

「それ前も同じこといわれましたけど、それって借金になるわけでしょ。だったら早くから働いて貯めた方が得じゃないですか」

 先生は俺の生意気な態度が気に食わないのか、話が噛み合ってない困惑した顔を向けていた。

「お前、一体誰と進路の話をしたんだ」
「だから、先生とでしょうが」

「私? そうだっけ?」
「先生も沢山生徒の面倒をみないといけないから、アレでしょうけど、俺はもう決めましたから」

「しかしだな、学歴は長い目でみたら人生の得だぞ。お前なら医者だって目指せる。それにほんとは医学を学びたいんじゃないのか」

「また同じこというんですね。いい加減に放っておいて下さい」

「おい、落ち着きなさい。とにかく、まだ時間はある。今決断するのは早い。じっくりと考え直せ。わかったな」

 先生に肩を叩かれ、俺は体に力が入って硬くなった。

 もやもやしながら、俺は教室を出て行った。