先輩、一億円で私と付き合って下さい!

 それは微笑ましくもあり、不意に温かな感情を俺の心に植え付ける。
 自然と優しくなれて、顔が綻び、もっと確実にそれに触れたくなって、無意識に俺はそっと片手を差出していた。

 ノゾミはそれを見て、キョトンとしている。
 俺もハッとした時には、なんだかすでに引っ込めなくなっていた。
 少し照れ臭かったけど、ぶっきらぼうに声を出す。

「ほら、だから、お前も手を出せよ」
「えっ?」

 驚いているだけで実行に移さないノゾミがもどかしくて、俺は自らノゾミの手をギュッと握った。
 ノゾミはびっくりして、跳ね上がり、お決まりのように顔が真っ赤になっていく。
 恥かしがって下を向いてはいるが、ノゾミの握り返す力を感じた。

「天見先輩の手、温かい」
 屋上で吹く風に乗るように、小さな声が俺の耳に届いた。

「お前の手も温かいぞ」
 手を繋ぐ俺たちはこの瞬間、恋人たちに見えたと思う。

 例えそれが、訳ありであっても、俺は素直に自分の感情をノゾミにぶつけられる事が心地よかった。
 まるでかわいい子犬に触れるように、意地を張らずに感じるまま人と触れ合う事を味わってみたい感情だった。

 肩を張らずにそんなことができるのも、ノゾミの不思議な行動の勢いに乗れたからかもしれない。
 俺はこの状況が段々楽しくなるように思えた。

 プライドが高い俺の完璧なものを壊してくれる存在。
 平凡で、本来なら素通りしてしまうような──俺は益々その未知なるものに、何かを見出したくなる。

 それに加えて俺もノゾミに変化を与えてみたくなる。
 俺たちが付き合うこの3ヶ月の間、まるでプロジェクトのようだ。

 期間と条件が設けられたから、不思議に必要以上に俺は心を鷲掴みにされた。
 それが終わった後は一体どうなるのだろうか。

 俺はその時、ノゾミの事をどう思っているのだろう。
 その時はその時の俺が決めているだろう。

 もし、ノゾミを手放したくないくらい好きになっていたら──
 まだまだそこまで俺は実感がわかなくて、ただ鼻から息が漏れるように笑ってしまった。