先輩、一億円で私と付き合って下さい!


 高い場所は気持ちよく、開放感に溢れ、俺は伸びをしながら深呼吸をする。
 ノゾミが何気に手を掛けたドアが簡単に開いた。

 ノゾミが係わると物事が突拍子もない方向へ進んでいく。
 ノゾミと出会った衝撃が、すでに俺をそんな風に思わせているのだろうが、確実に俺は影響を受けているから、まんざら嘘でもない。

 そこにくすぶる、まだノゾミが話そうとしない、なんらかの秘密。
 これは一体どんなことなのだろう。

 三ヶ月後、それを訊くのが待ち遠しくなって、俺はゲームの駒を進めているような気分だ。
 さらに上がりには一億円が待っている。

 果たしてそれを手にするのか。
 人生ゲーム、リアルバージョン──

 なんだか、ふざけたキャッチコピーを作ってしまうくらいだから、俺はまだ現実に起こってることとして受け入れてない。

 ノゾミの横顔を見れば、彼女はどこまでもまっすぐに前を見ている。
 口元を固く結び、真剣な眼差しを虚空に向けて、深刻な事のように考え込んでいるようだった。

 どうせその理由を訊いたところで、彼女はきっと何も言わないだろう。
 だから俺は、黙って同じように彼女が見ている方向を見つめた。
 そのうち彼女がくしゃみをしてしまい、振り向けばまた彼女は顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた。

「そろそろ、帰るか」
「はい」

 俺が歩き出せばノゾミも俺の後をついて来たが、後ろを振り返ってまだ名残惜しそうにしていた。

「ここが開いている事を誰にも言わなければ、また戻ってこられるさ」
「バレないといいですね」

「よほどここが気に入ったんだな」
「はい、いつもと違う新しい世界が広がってるのを感じられるんです。先輩と一緒にそれを見られたこともとても嬉しかったから、私には特別のように思えてしまいました……」

 語尾が尻すぼみになりながら、俯き加減にはにかんでいる。
 恥ずかしいのに、それでも俺に伝えたいと踏ん張ってたのかもしれない。

「そっか、俺といると世界が違って見えるってことだな」
 つい茶化したくなって粋がって言ってみた。

「その通りです」
 ノゾミは俺に合わせるために一生懸命笑おうとしていた。

 でも、瞳は涙を溜めこんだように潤い始めた。
 それを隠すように俯き、さりげなく目元に触れながら、涙をぬぐう。

 また感極まったのだろうか。
 ノゾミはとにかく俺が絡むと、感情が刺激されるようだった。