途中教室を覗き込んでは、ノゾミが居ないか確かめる。

 誰か見てなかったかと、その辺の生徒を捕まえて訊いてみるも、皆、首を傾げて、困惑の表情を向けた。

 一体どこに連れて行かれたというのか。

 江藤が言っていた事がすぐさま現実となり、こんな簡単にノゾミが虐めに遭う事が信じられなかった。

 嫉妬──自分もまた己の境遇の理不尽さで、会った事もない異母弟に同じ気持ちを抱いていた事に強く批判できないものを感じた。

 もし、目の前に弟が現れたとしたら、俺もきっと態度が悪くなり、いい感情を持たないのが想像できる。

 人は自分が成し遂げられないもの、欲しいと思って手に入らないもの、そして不満があるときにいい思いをしている者を見れば、負の感情に捉われ易い。

 自己愛があるから、自分がみじめになるのは耐え難いものである。
 その辺も理解できるから、俺はこの問題に対してどう対処すべきなのか慎重に考えてしまう。

 だが、実際ノゾミが女子生徒から突き飛ばされているのを目の前で見た時は、俺は許せなかった。

 彼女は屋上への出入り口がある階段の踊り場で、数人に取り囲まれていた。

 そこでよろけて壁に寄りかかるように不安定に立っていた。

 屋上へ出るドアがノゾミの傍にあるが、鍵がかかっているので、勝手に生徒は開けられないようになっている。

 下に降りる階段をふさがれると、その踊り場はちょっとした小部屋になって、逃げ場がなくなるような場所だった。

 屋上へ出るには、余程の理由があって、先生の許可が下りないと無理なので、普段誰もここに来る者はいない。