「私もノゾミは損な役柄だとは思ってるけどね」

 人の役に立ちたい──
 人の幸せを願う──
 本当にノゾミらしい。

「ねぇ、天見君はうちのケーキの噂聞いた事ある?」
「噂?」

「誕生日ケーキや特別なケーキを注文した時に、うちではオリジナルのろうそくを一本つけてるの」
「オリジナルのろうそくってなんですか?」

「お継母さんがデザインした、l’espoirってロゴのろうそくなの。これに火をつけて願いを込めて吹き消すと、それが叶うっていう噂」
「いえ、聞いた事ないです。そんな噂があるんですか?」

「ていうか、その噂を根付かせようとして作ったんだけど、まだ世間では上手く伝わってないみたい」
「それ、商売のために口コミの宣伝効果狙ってるんですか?」

「ノゾミが考え付いたアイデアなの。ノゾミは人を幸せにするようなケーキを作りたいらしいの。うちのケーキがそうなったらいいなって願ってる」

 ノゾミは俺のためにどうしても作りたいケーキがあると言っていた。
 そのケーキの事なんだろうか。

 きっと苺をたくさん乗せて、俺の好みに合わせた甘さに仕上げるのだろう。
 なんでだろう。
 どんなケーキか想像できて、目の前に浮かんでくるようだ。
 そのケーキの姿を思い浮かべながら、俺は次第に意識が遠のいていった。

 部屋の中で「ピンポーン」という音が鋭く響いたとき、俺はそれで目が覚めた。
 ユメも起きた直後みたいで、のそっとベッドから起き上がり、枕元にあった時計を見つめる。

「誰、こんな朝早く」
 大きな欠伸をし、玄関に向かい、ドアが開いた気配がした。