「天見君、もう寝た?」
 無視しようかと少し躊躇したが、中々寝られそうもなかったので、「いいえ」と答えた。

「だったら、お姉さんが昔話でもしてあげようか」
「別にいいです」

「遠慮することないわよ。昔々……」

 おいおいって、暗闇の中で白目になってしまった。

「あるところに夢見るお姫様がいました。夢見るお姫さまには年の離れた妹がいました」
 まさにユメとノゾミだった。

「ある日、妹は姉の大切にしていた赤いハートのネックレスを無断で使って、そして失くしてしまいました。姉はカンカンに怒り、妹をぶってしまいました。妹は必死に耐えて、何度も何度も謝りました。姉はそれでも許さなかったのです。でも実はそのネックレスは、別の所に住む王子が盗ってたのです。妹は王子を庇っていただけでした。姉は後に真実を知ったのにぶったことは謝りません。年月が経ってもずっとずっと謝る事はありませんでした。終わり」

「えっ、そ、それは」

「そう、卑怯な夢見る王女様でしょ。ずっとずっと心の奥で妹を妬んでたの。それが憎しみになって、自分が間違った事をしても謝れなくなったの。それなのに、妹は姉を受け入れて愛そうとするのよ。もし私が妹なら絶対に許せないと思う。でもあの子はどんな理不尽も受け入れた」

 例えの話から、あの子と呼んだことで、ノゾミの話になっている。

「あなたの弟だけど、彼もあなたの事を最初敵視していたんでしょう。きっとあなたと比べられて、劣等感を抱いていたと思う。でもあなたは、弟と知らなかったことで、彼を寛大に受け入れて勉強の手伝いも無償でしてあげた。もし、それが弟とわかってたら、あなたはどうしてた? ちゃんと真っ向から向き合った?」

 ユメの言いたい事はわかる。知らなかったから、俺は気にせずにありのままにセイに接することができた。

 セイは俺の事を知っていたけど、敢えてそれを言わなかったことで、俺の本来の姿を見る事に繋がった。

「上手く行かなかったと思います。お互い憎しみ合って、いがみ合っていただけだったかと」
「ノゾミがはっきりと事実を言わなかったのは、そのことが分かっていたからかも。あの子はどうすればその人を助けられるのか、ちゃんと考えて行動してる」

「お人よしですね」
「あら、そんな風に言っちゃう? せめて思いやりのある子とか言ってほしかったな」

「別に悪い意味じゃないんです。なんだか彼女らしくて、感心してるんです」

 暗闇に目が慣れてきた。
 ぼんやりとこの家の中のものが見えてくる。
 そしてノゾミの事も同じように──