先輩、一億円で私と付き合って下さい!


 俺は行くあてもなく、じめついた夜の中、とぼとぼと歩いていた。
 とりあえず最寄りの駅前に着いたものの、家にも帰れない、こんな時間に突然訪ねて行って泊めてくれるような友達もいない。

 かといって、ホテルに泊まる程の金もないし、公園で野宿するわけにもいかない。
 気軽に行けそうなネットカフェも確か18歳未満の高校生は22時以降の利用が法律で禁止されている。

 どうしようもなく絶望しているとき、後ろから肩を叩かれた。
 振り向けばそこにはユメが微笑んで立っていた。

「天見君、みーつけた」
「えっ?」

「さっきね、ノゾミから連絡があったの。この駅の付近に天見君がいないか見てきて欲しいって。変な事聞くもんだなって思ったんだけど、ほんとにいたからびっくりした」

 そういえば以前ユメがこの辺に住んでると言っていた。

「なんでノゾミがお姉さんに連絡なんか」
「ノゾミも人から連絡を貰って、それで天見君が心配になったんだって」

 セイが連絡したに違いない。
 俺が何もかも知ってしまったから、それでノゾミに報告、または相談というところか。

「だけど天見君、なんでこんな時間にこんなところにいるの? 未成年はこの時間うろついたら危ないぞ」

「それが、今日帰るところがなくて」
「えっ?」

 ユメは訳を話してみろというので、俺は正直に事の成り行きを説明した。
 父親の事、母の事、セイの事、そしてノゾミの事。
 上手く伝わってるか自信がなかったが、ユメは何度も頷いて聞いてくれた。

「そっか、複雑な話だね。しかもノゾミが天見君の弟を手助けしていたって、どこで知り合ったんだろう。まあノゾミが係わってる以上、姉としても放っておけない。ねぇ、泊まるところがないんだったら、うちこない?」
「えっ!」

「あっ、大丈夫よ。襲わないから」
「えっ、えっ!?」

 そういう意味じゃなくて、俺これでも男なんですけど。
 気安く一人暮らしの女性の家に泊まるのはヤバイと思うんですけど。

 頭ではそう思っているのに、上手く口で言えないまま「えっ、えっ」とそんな鳥の鳴き声があるように、ずっと連呼していた。

「いいからいいから」

 ユメに背中を押されるまま、俺は結局従ってしまった。