先輩、一億円で私と付き合って下さい!

 その瞬間、この家にあるものが目に飛び込み、俺はとてつもない嫉妬をセイに感じ出した。

 俺の目の前には生物学上の父親。
 本来なら、俺が手に入れる事の出来たもの。
 恵まれた生活、両親が揃った家族、そして金。

「なんで、なんでだよ」
 俺は体の震えが止まらなかった。

「黙ってたのは悪かったけど、俺はそのお蔭で嶺の人となりを良く知れたと思う。今なら俺、嶺が兄でよかったって思うもん」
「俺は、俺は……」

 感情を必死に抑えることで精一杯だった。
 そんな俺を、風呂から上がりたての湯気を出しながら、無防備に立ち竦んで、父は憐れんで見ている。

 その数時間前は、きちっとした身なりで俺と食事して父親面をしていた。
 そして今、素の姿をさらけ出し、もう一人の息子を訪ねて父親そのものになってる。

 俺は無性に腹が立つ。その不公平さに。

 俺だけが何も知らずに、いや、俺が手に入れられた本来の物を取り上げられて、暮らしていた。
 なんだこの理不尽さは。

 俺は我慢できなくなってその場を飛び出した。

「嶺、待てよ。黙ってたからってそう怒るなよ」

 セイが引き留めようとする。
 でも俺は振り払い、出て行く。

「嶺! なんでそんなに怒るんだよ。待ってよ」
「青一、そっとしてあげなさい」

 無理に引き留めようとするセイを、父は放っておけと言わんばかりに止めていた。
 俺よりも弟を選ぶ父にも腹が立った。
 そして俺より後に生まれたセイの本当の名前に「一(イチ)」がついてた事にも腹が立った。