先輩、一億円で私と付き合って下さい!

「青一(セイイチ)、風呂あがったぞ、湯船に蓋してないから温かいうちにすぐお前も入れ」
「お父さん、今、友達が来たんだ」
「ん? こんな時間にか?」

 セイの父親が振り向いた時、相手も俺もフリーズした。

「嶺……」
「なんであんたがここに」

 そこにはさっき俺の父だと名乗った人物がいた。
 傍でセイは楽しい事柄のように、呑気に笑っていた。

「なんだ、面識はあったんだ。俺、てっきり初対面だと思ってた」
「どういう事だセイ」

「それは俺と嶺が同じ父親を持つ半分血の繋がった兄弟だっていうことさ」

 俺は言葉に詰まり、父もこの状況が飲み込めずに石のように固まっていた。

「俺がお前の兄だと知ってて、俺に近づいたのか?」
「そうだよ。ノゾミが手助けしてくれた」

「ノゾミが!?」
「ノゾミが、その、困ってる時、俺を助けてくれて、それでさ……」

「だったら、なぜ最初から俺の弟って名乗らなかったんだ」
「初めて会った時、名乗ったじゃないか。『弟』だって。それをノゾミの弟と勘違いしたのはそっちだ」

 セイが学校に現れた時の事を俺は思い出していた。
 確かに、俺が誰だと訊ねた時、弟だと言い切ったが、まさかそれが俺の弟を意味しているとは思わなかった。

「じゃあ、どうして訂正しなかったんだ」
「俺がもう少し冷静になった時に言えばいいって、ノゾミが言ったんだ。いきなり名乗ったら、嶺も混乱するから、暫く成り行きに任せてみようってことになって」

「ノゾミも一枚噛んでたのか。なんだよそれ」
「ノゾミは何も悪くない。必死に俺を助けようとしてくれただけだ。俺はノゾミに本当に助けられた。ノゾミは正しかった」

「道理で、お前たちの行動が突飛過ぎた訳だ。裏で色々と計画していたってことか。俺が兄だとわかっていたから、挑戦的になってたのか」

 全てを知った後だと、辻褄が合ってくる。
 セイは俺と張り合いたかった。

 俺がいるために、比べられるのが嫌で憎しみを抱いていた。
 俺とはまた違った理由で──