先輩、一億円で私と付き合って下さい!


 俺はホテルのフロントデスクの前にいる。
 といっても、それはセイの住むマンションのエントランスホールだった。

 俺は、一人で暮らしているセイを頼って、ここまで来てしまった。
 時はすでに9時を過ぎたころだった。

 この時間に訪問客が来るのは非常識なのだろうか。
 初めて見るコンシェルジュの対応が雑だった。

 以前見かけた人は目は厳しくても物腰柔らかだったと比べていた時、セイから許可がとれ、俺はセキュリティカードを渡された。

 すでに何度も来ていたことがあるので、それを手にするや俺はエレベーターに乗り込んだ。

 目的の階につき、迷わずセイの部屋のドアをノックすれば、セイはにこやかに俺を出迎えてくれた。

「こんな時間にすまない」
 俺が殊勝に畏まると、セイはいたずらっぽく笑う。

「なんからくしないな。結構俺様キャラの癖に。とにかく上がって」

 土間で靴を脱いで足元を見ている時、そこに並んであった靴を見て俺は既視感を覚えた。
 廊下を通り、居間に出ればセイ以外の人の気配を感じた。

「家政婦さんがきてるのか?」
「いや、来てないよ」

 セイはニヤニヤとして何かを言いたそうに口元とムズムズとさせていた。