先輩、一億円で私と付き合って下さい!

「すまない。今更言ったところで仕方がなかった。だが、嶺がお腹にいた事がわかっていたら、私は離婚などしなかった」
「でも浮気相手の方が先に妊娠したんじゃなかったんですか?」

「あれは私も母に焚き付けられて、そっちを選ぶように説得された。私もあの時は血迷って、跡取りを優先させてしまった。でもそれも流産という結果になって、罰が当たった。その間に嶺がすくすくと育っていった」

「そしてその結果、その浮気相手とも上手くいかず別れた」
「そこまで知られてたら面目ないな。その通りだ。なんとかまた未那子と復縁をしようとしたけど、そこは一度決めたら貫き通す頑固な性格のため、拒否された」

「そこで、生まれた俺だけでも引き取りたかった、跡取りのために」
「そうだ」
 父は開き直っていた。

「母は断り続けているうちに、あなたはまた新しい伴侶を見つけ、そしてすぐに息子を授かった。それでその後は母と俺の事はどうでもよくなった」

「すまない。本当に悪いと思っている」

 謝り倒すしかないのだろうが、当事者の俺はやっぱり許せないと思った。
 そういうところは母親の血が色濃くでて頑固という事だろうか。

 料理はその後も次々と運ばれ、他にすることがないだけに黙々と食べていた。
 どんなに高級な素材で作られた料理であっても、気持ちが苛立って美味しく味わえない。