「どうも初めまして」
 父親を前にしていう挨拶ではないが、精一杯の礼儀を見せたつもりだった。

「挨拶はいい、とにかく座ってくれ」

 父の前に座り、俺は目のやり場に困る。
 このまま真っ直ぐ見れば、睨まない保証がない。
 つい俯き加減になってしまった。

「そうだな。顔を合わせるのは初めてだ。お前も色々と私に文句もいいたいだろう。遠慮なく言ってくれていいんだぞ」
「いえ、特に」

 俺は嘘を吐いた。
 本当は殴ってやりたい程、自分の憂さ晴らしをしたいくらいだ。

「ずっと放っておいてすまない。何を言い訳したところで、私は嶺に許されないのもわかっている。だが私は謝らずにはいられない。本当に申し訳なかった」
「だったら、俺じゃなくて母に言って下さい」
「ああ、そうだな」

 この時、沈黙が流れた。
 そして、静かになったのを待ちかねていたように、襖のむこうから「失礼します」と声が聞こえ、飲み物が運ばれてきた。

 なんだか、俺たちの会話を聞かれているように思え、息苦しさが募った。
 給仕が料理の事を色々と訊き、父と確認を取っていた。

 俺はその間ずっと下を向き、膝をギュッと掴んでこの時を意味もなく耐えていた。
 給仕が消えるように去っていくと、また父が話し出す。

「料理はこの料亭に任せる事にした。それでいいか?」
 俺は軽く頷く。