俺は真剣にノゾミを見つめた。
 自分の心を覗かれたちょっとした仕返しのつもりだったが、その時俺は「あっ」と叫んだ。

 ノゾミは少し遅れてからそれに気が付き、走って屋内に逃げてしまった。

「おい、ノゾミ、別に俺なんとも思ってないから、そう恥ずかしがるな」

 またこの時もノゾミは鼻血を出した。
 とにかく興奮すると、鼻血が出る体質らしい。

 赤い筋が鼻から垂れると、どうしてもちょっと笑ってしまう。

 でもできるだけ失礼にならないように、俺は耐え、少し息を整えてからノゾミの許へと向かった。

 ノゾミは俺に背中を向けて、踊り場の隅っこの方でごそごそとしていた。

「鼻血が出たからといって、恥ずかしがらなくてもいいから。そればかりはどうしようもないからな」
「どうしようもない……」

 ノゾミの肩が震えていたように見えた。

「先輩、今日は一人にしてもらえませんか。暫く鼻血が止まりそうもないので」
「おいおい、俺に出たところを見られたからってそんな気にすることないって」

「ち、違うんです」
「何が違うんだ?」

「いえ、それは……」
 ノゾミは忙しく手を動かすことで、その後は黙り込んだ。