もし、自分の生きる道が、この世に生を受けた瞬間、決定されたとしたら

私たちは、どう生きていくのだろう。










室内に赤ん坊の泣き声が響いた。

「女の子だね。この子が生きる道は平々凡々。事務員として生きていくのだろう。」


「そ、そうですか…。」

母親となったまだ若い女性が、安心したような、ちょっと不満があるような声音でそう言った。

母としては、そう、平々凡々に生きられることを幸せに思うべきなのだろう。いきなり、大人になる前に死んでしまうと言われてしまう子もいるのだから。






…でも、心のどこかで特別な才能があるようにと願ってしまうのは、親としては失格で、残酷なものなのだろうか。





女性はそっとため息をついた。








それを見て、赤ん坊を平々凡々と言った男はにやりと笑った。
「しかし…」


男の声に、お産の疲労からか、重くなってきた瞼を上げる。



「この子には不確定要素があるようだ。未来がぼやけて見えるよ。こんな事は初めてだ。」









その言葉に女性は体を震わせた。不安が胸をよぎる。


「そ、それはどういう…。」



「…さあね。僕にはまだわからない。まだまだ修行中の身なものでね。」









女性は気まずげに目を伏せた。初めてこの男に会ったときに、
「こんな修行中の若輩者なんかに、我が子の未来を決められちゃうの?」
と言ってしまったからだ。

もちろん、すぐに後悔する事になったのだが…。




空気が重くなったのを感じてか、男は肩をすくめて明るく言った。
「別に、意地悪で言っているのではない。本当に分からないんだ。数々の文献を読んできたが、このような例は書かれていなかった。世界初なのではないかな。」


女性はほっとしたのもつかの間、やはり不安が胸をよぎる。






「この子は…どうなってしまうの。」

「努力と…選ぶ道次第、かな。…師匠に相談してみるよ。本当に困ったら、また連絡してくれればいいよ。」

本当は関わるのは禁止なんだけどね、と男がぼやく。




女性はくすり、と笑ってお礼を言った。








ああ、もう眠い…。女性の様子を察してか、男はおやすみ、と言いながら部屋を出ていった。








女性は期待と不安を胸に、眠りについた。