偶然の必然―。
あなたはよくその言葉を使っていたよね。 でも、私は運命―、ううん、それ以上の何かが二人を引き合わせてくれたのだと、今でも信じています。
あなたはあまりにも突然に私の前から逝ってしまったけれど。
ゆったりとしたチェアーに身を任せていた女性は、すぐ近くにある小さなライティングデスクに手探りで手を伸ばし、アンティーク調の装飾が施された、小箱を手に取り蓋を開けた。 次の瞬間、澄んだ高い音色で「オーバー・ザ・レインボー」が流れ始めた。
彼女はしばらく、そのメロディーにじっと耳を傾け、音色が少しずつ遅くなり、ゆっくりと最後の音がフェイドアウトするまで、ずっと虚空に両目を据えていた。
そして、ゆっくりと目を閉じ、今度はデスクの上に丁寧に置かれた、写真立てを迷う事なく手元に引き寄せ、薄い胸に抱いた。 相変わらず彼女の視線は定まってはいない。
じっと、宙の一点を見つめ続けていた。
「翔太・・・元気にしてる? きっと翔太なら、あっちでも相変わらずなんだろうなぁ…」
彼女は思い出の中の翔太の姿を想いだし、思わずクスリと笑った。
「…ねぇ、翔太。私今日誕生日なんだよ? いくつになると思う? …もう35歳になったんだよ。時が過ぎるのってホントに早いモンだね。」ぽつりと呟いて、左手薬指に光る指輪をそっと撫でた。