SE:虫の声の響く森

怪物「ギャッ…ギャギャッ…」
女B「ねぇ…アタシ達、どうなっちゃうんだろう…」
男A「どう見たって俺達、餌だよなぁ…」
郁美「――――あっ!」
男A・女B『なっ、何っ?』
郁美「アタシ、旅館にコートも髪留めも忘れてきちゃったぁ…」
男A「…あのなぁ…」
女B「こんな時に何言ってんのヨ~…ホント能天気だねぇ…」
男A「ったく…昼間のキレッぷりが嘘みてぇだなおい…」
郁美「…ゴメンなさい…」
女B「いや、別にいいけどさぁ…アンタのその余裕はどっから来んのよ?」
郁美「――――別に余裕なんて無いよ…でも、大丈夫なんだ、アタシ…」
男A・女B『?』
郁美「――――昔っからね、アタシには王子様が居てくれてるんだ…
   どんな時でもアタシのピンチには絶対に来てくれる、とびっきりの王子様が…」
男A「…イタイな…コイツ…」
女B「どんなクソ度胸かと思ったら、ただのお花畑かよ…大体、今時そんな王子様なんて居るはずが――――――」

SE:ブオォォォォォォンッ、キキキキィィィィィィッ!(停車するバイク)

龍司「郁美ぃっ!」
郁美「龍司君っ!」
男A・女B『………居た………』
龍司「大丈夫かっ、郁美っ!」
郁美「アタシは大丈夫っ、ゴメンネ龍司君!コートと髪留め、忘れちゃって――――っ!」
龍司「…そっちかよ…」
怪物「ギャギャギャギャッ!」

SE:ビシュウウウゥッ(糸を吐く怪物)

龍司「うわぁっ!…くっそぉ、このままじゃ郁美に近付けねぇ!どうすれば…んっ?」

SE:カサカサカサ(髪留めの動く音)

龍司「…髪留めが動いてる…はっ、そうか!コイツは牙月の式神だった――――ようしっ、行けぇっ!」

SE:ブンッ、シュルルルルルッ(飛んでいく髪留め)

郁美「きゃっ!」

SE:シュルシュルシュル…(郁美の髪に巻きつく髪留め)