心で叫ぶ、君のこと







花火まで、あともう少し。



わたあめも食べ終わって、あたしたちはスーパーボールすくいに来てた。



ほんとは金魚すくいがよかったんだけど、どう考えても取れないからまだ動かないやつにしてみたっていうことです、はい。






目の前に広がるは色とりどりのスーパーボールの海。



そして手には、あたしの一息だけでもろくも破れそうなくらいぺらっぺらのすくうやつ。(名前わかんない)




そして後ろには、まるでサッカーかなんかの監督のように腕を組み、鋭い視線であたしを見下ろしてる昴・城田。





前方では、屋台のおじさんがストップウォッチを片手に構えている。





「じゃあ、いくよ。よーーい、どん!」



はああああっ。


いっけえええ。





真野選手、大きく腕を振りかぶって、勢いよく着水したーーっ!




…え?






あまりにも信じ難い現実に、思考かしばらくストップする。




いやでも、たぶんだけど、いや確実なんだけど、






あたしが持ってる紙、破れてる。






ううん、正しくは、水に入れた瞬間破れた。






「はああああああっ!?!?」





いや、ありえな!


これからなんですけど!

萌黄VSスーパーボールの勝負、始まってすらいないんですけど!




「…お嬢ちゃん。」


「…萌黄。」



前後から、全く同じトーンで声をかけられる。



それをやってしまったらおしまいだ、みたいな。




昴の場合、お前はそこまでアホだったのか、みたいな。





「あ、あの……。」



一同、絶句。




「……お前、ある意味天才だな。」




昴のうめくような声。





あ、どうも………




って、なにをどう考えても褒められてはない。





あああああ、自分の才能のなさに絶望だぁぁ。





「…もう1回やるかい、?」




同情をたっぷり含んだ声で、おじさんが聞いてくる。




「あ、いえ…もう、大丈夫です…。」




おとうふメンタルで有名な萌黄はもうくじけたのでした…。




「いいのか萌黄?」


「いいよ、たぶん次も同じ結果だから。」




たぶん、ていうか絶対ね。



あたしそこらへんの期待裏切らないから。








「じゃあ俺もやろっかな。」



やけにわくわくした様子で、昴が一歩前に出る。



「え、やんの?」




ふんっ、あたしがこの有り様だったんだから、昴がやっても結果は目に見えてるねっていう気持ちも込めて聞く。




「おう。やったことないけど。」



やったことないだーぁ?



ハッ。笑わせてくれるんじゃないよ坊や。



この毎年お祭りでやってる経験豊富なあたしがこれなんだから、初めてやるあんたなんて手に持ってるだけで紙が破れちまうよっ!





なんていうあたしのひねくれきった頭の中をよそに、昴は袖を短く折って臨戦態勢に。



おじさんも張り切ってストップウォッチを持ち直してる。





「いいかい?…よーい、ドン!」



さぁーて城田選手!


無駄のないなめらかな動きで着水し、



…な、なんと!早くも1つ目をすくい上げたぁ!



紙はまだ無事です!




続いて…


おっとぉ!


またまた、今度は同時に2つもゲットしました!




さぁ…まだタイムは余裕のようだ!




はい!さらに2つ追加です!



勢いが止まりませんっ!




探りをかけている……。


かけている〜…



はいっ、1つ獲得っ。



「終わり〜っ。」



おっ、おじさんの気の抜けた声が上がりましたので、これにて終了でございます。



城田選手、なんとなんと6個獲得ーっ!!



「おめでとうございます!」



手にエアーマイクを握り、熱戦を終えたばかりの昴に突撃する。



「は?…あ、どーも。」



「記録は6個ということですが、すごいですね!今の心境を聞かせてください。」




「心境?まあ、嬉しいっす。誰かと違って最後まで紙を破ることなくできたので。」



その言葉に、がごーんと現実に戻る。




「な、な、なんですってぇ?」



おのれぃ、6つも取るとか想定外すぎて、、。



昴はそんなあたしをにやにや見つめてる。



「はっ、新たな才能が開花したみたいだな。ごめんな?」



「うるさいうるさい!はいはいすごいですねー、はいはいはいはい、おめでとうございますー。はい行きましょう。」



昴の好成績ににこにこしてるおじさんからスーパーボールが入った袋をひったくるように受け取って、すたすたと歩き出す。




「おいおい待てよ。」



くっそぉ、悠々と歩きやがってぇ…!



もう、知らんわ!



置いてこ置いてこ。



まだちょっと痛む足を抱え、ぞうりを履いてるにしては早いペースでぐんぐん進む。






怒りながらも次の目的地を探してキョロキョロしていると。






「…えぎ!」



抑えたような、だけど割とはっきり聞こえる聞き慣れた声が。




ん?どこだ?




声のする方を見ると、キャラクターの仮面を売ってる屋台が。



え?



「もーえぎっ、ここだっての。」




今度はさっきと違う声。






あ、後ろかな?





なるべく店主に見られないようにお店の裏に回り込むと、





やっぱり……。




狭いお店の裏のスペースに、気持ち悪いくらいにたにたしてる海央、梨香子、佐奈が収まってる。




「よっ、萌黄!エンジョイしてる?」




「…あんたたちねぇ…。」





エンジョイしてる?じゃないよ、これからさらに盛り上がってくるのにさぁ。



「だいたいねぇ、さっき見えたんですけど?」



「さっき?」



「たこ焼き屋さん並んでるとき。」




「ああ!」




佐奈がわざとらしくぽん、と手を叩く。




「あれね、わざとわざと。」




ん?




「何言ってんのかわかんないんだけど。」





「だあから、もしもえがあたしたちが見てないと思ってさぼっちゃったらダメだから、ちゃんと見てるからねって意味でわざと見えるようにしたの。」




はい?




「何をさぼるのよ。」




「決まってんでしょ、あたしたちが前に教えたモテクよ!」




ああ梨香子、そんなものもありましたね。



いや、ちゃんとやったじゃん、わたあめ分けたし。




「でも萌黄ってばめっちゃ食べるつもりでしょ、このあとも?」



「そりゃね。お祭りだもん。」




はぁーっと、大きすぎるため息の主は、海央。




「ほんっとだめねぇもえは。」



「な、なによ。」



いつ海央にだめって言われるようなことしましたっけ。




「がつがつ食べないって言ったでしょーが!」




うげっ、そ、そうでござった…。




「あぁ…ま、まあ、うん。」



「忘れてたの!?だめだめ、女の子はおしとやかにしてなきゃ。」



何を言う。普段はあたしのこと女子どころかもはや猛獣だとか、人間とも認めてないくせに。




あとさ、今ごろ昴の前でモテクとか使ったってなんの意味もないから。



手遅れすぎるってやつ。



「とにかく、もっと頑張って。」



「いや、頑張るもなにも…。」



「あたしたちずっと見てるからね。」



ホラーです。怖いです。やめてください。




「もう、とにかく邪魔はしないでよね、?」



「だぁいじょーぶだって。そんなことしてもいいことないし。」




ああ、そーっすか。




「あれ、昴くんは?」



不意に梨香子が聞く。





はっ。





「うわぁぁ、置いてきた!」



「はー!?」




完全に呆れてる3人。



いやいや、あんたたちが呼んだからでしょ!?




まあいいや、早く行かなきゃ。





「じゃ、じゃあ行くね。ばいばい!」




振り向きもせず適当に言い残してまた道に出る。






昴〜おいどこいった??





じーっと目を凝らして隅々まで祭り会場を見渡すと、1つの屋台に入ってる昴の姿が。




おー、あれは…りんご飴?





わー!あたしも!食べるっ!