心で叫ぶ、君のこと





「ほらよ。」




ぼやーんと考え事をしてたあたしの目の前に、突然ぬっと水色の四角い塊が。




あ、保冷剤…。



ぐわっと頭上を見上げると、走ってきて少し息が上がってる昴が。




「あ、ありがと。!」




「いいから足出せ。」




あ、はい。




ぶらーんと昴のほうに足を投げ出すと、昴の言う通りだいぶ痛みが和らいでたことに気づいた。






昴は黙って保冷剤を足首に当てる。



「うひっ、冷たっ。」



思わずバカな声が…。




「我慢しろ。」



短く制す昴。




「いや、まって、ほんとに、冷たいんだけど…。」




痛い痛い痛い。冷たくてもはや痛い!



身をよじりたいけど、思った以上にっちりと抑えられてるから無理。





「…ねえ、いつまで冷やすの?」




「まだだ。」




うん、あのね、いつまでって聞いたんだけども。



するとあたしのツッコミが聞こえたのか、低い声で続ける。



「俺がいいって言うまで。」



はーっ?どうぜいつまでもいいって言わないでしょーが。






あー、足が感覚を失ってきた。



しびれてんのか分かんないけど、とにかくマヒしてきた。








「…よし。」





少し経つと、そう言って保冷剤が外された。



うへーっ…やっとですか…。


じんじん、とまだ余韻が残ってる。



「ふわーっ、冷たかった。」




「冷やすのが一番なんだよ。もう痛くないか?」



「いや、冷たすぎてよく分かんないけど、たぶん直った。」





立ち上がろうとするあたしを、昴がぐっと押さえ込んで止めた。



「まて。まだ動かない方がいいだろ。」



と言って、あたしの隣りに腰を下ろす。




「あ、うん…。」




いや、このまま星を眺めててもいいんだけど、屋台行って美味しいもの食べようと思ったのに、、。





がっくり。


いつまで動いちゃダメなんだろ。






沈み込む気持ちは隠しきれず。



そんなあたしに、呆れたように昴がつぶやいた。




「おまえ、そんな祭り好きだっけ?早く行きたくて仕方ないみたいな顔してるけど。」



「いや…好き…だよ、うん。」






今日は昴と行ける最後のお祭りだからって、昴はわかってくれないのかな。






わかってるような気もするけど。




「ふうん?」


だってほら、ちょっとからかったように笑ってるもん。





もう。






「…じゃあさちょっと休んだら向こうの方行こうね。」




「いいけど。無理してまたひねんなよ。」




「んなことしないわっ。」




さすがにそれはやばいでしょ。




大丈夫ですよーだ、そんなことあたしが一番望んでないもん。





そうこうしてるうちに、周りは随分人が増えてきて、本格的に夜の暗さになってきた。




笑い声とか話し声とか、どこがで誰か踊ってるのか、太鼓や鈴の音も賑やかに聞こえてくる。




うー、楽しそう…。





うらめしそうにそっちの方向を見て、また視線を昴に戻す。




ぼんやりと空を見てる。


星が綺麗だなぁとか思ってんのかな。





いや、昴にそんな心あるっけ。

おっと、うそうそ。






「あ、昴、そういえば…今日はちゃんと来てくれたんだね。」




頭に浮かんでるのは、スイーツ博のこと。


結局行けなくて、そのときはありえないって思ったけど、実はとてつもなく苦しい現実があることに気づいて…。




あたしの言葉に、昴はバツの悪そうな笑みを向ける。




「ああ、まあ…。

あんときはごめん。」




「いや、もう気にしてないし。昴がほんとに大変なことになってるなんて知らなかったからさ、怒っちゃって…。こっちこそごめん。」






夏祭りに誘ったあの日だって、昴にとっては遠い遠い昔のことなんだ。



そんなこともあったねって、思い出話にできるくらい。







わかってるのに、わかってるはずなのに、いざ昴を目の前にすると、そんな気がしなくなる。




普通に、昨日は学校があって、一晩寝て起きて、こうしてお祭りに来たって感じに。




それくらい、昴は強くて、強くて、強かった。




「あれから、ちゃんと忘れないように全部書き留めておいて、いつでも見えるようにしておいたんだ。だからもう、昨日…萌黄にとっての昨日、からだいぶ経ったけど、ちゃんと覚えてた。」




にっとピースを作る昴が、ぐさっと胸につきささってきた。



「そうなんだ…ありがと。


でも、無理はしないでね。ほんと。
少しくらい忘れちゃっても、あたし、絶対怒んないから、もう。」



昴を支えなきゃいけないのに、ほんとに何も出来なくてごめんね、




無理しないで、頑張って、しか言えない。




「おう。…」




一旦昴は目を伏せて、また上げた。





「ごめん。今まで、たくさん迷惑かけてきて。ほんとに…。ここ最近、すごい悩みもたくさんあったし色々あって、俺自身大変だったけど、それ以上に萌黄も、大変だったと思う。」



「そんなことないって。あたしなんてなんもしてないし…。」




はは、と短く笑う昴は、久しぶりに心から笑ってるなって感じた。




「そんなこと。俺さ、萌黄がいるだけでめちゃくちゃ元気でたから。」





………?!



い、いや、な、なに言ってんの。




て、照れんじゃん。





思わず、ぶらぶら動かしてた足が止まる。





「あ、あ、…ありがと、。」





柄にもないこと言わないでよ。



心の準備できてなかったじゃん。



ドキって、しちゃったじゃん。






昴は、そんなあたしの反応を楽しむようにこっちを伺ってる。




あぁもうっ、なんか別の話…。





あ、そうだ。





ぶんぶんと手を振って今の話を断ち切り、ぐいっと体を横にひねる。




「ねえ、1つ気になることあるんだけど。」




「ん?」




昴は、突然のトークチェンジへの戸惑いや、あたしの反応が満足に見れなかった不満をちょっと引きずったような顔で、だけどいつものように答えた。




「あのさ、昴はあたしよりももっとたくさんの時間を生きてるわけでしょ?なのに、なんで高校生のままなの?」




ああそのことか、と言うように昴が手をひらひら降る。



「亜時では肉体的な変化は起きないんだ。だから、見た目はほかの人たちと変わらない。」




「へー?そうなの?」




そうだったんだ。





「じゃあ、記憶と心だけがそのままってこと?」




「そういうこと。


だから俺暇でさ。ほんとにゲームとかもやりつくして、ついに勉強始めたわけ。」



「まじで!?あの昴が勉強を?」





あ、だからここ最近成績があがったのか…。



いや、それにしても。



「あの、とはなんだあのとは。」




しかめっ面で昴は言うけど、ほんとに信じられないんだよね。




勉強とは縁のない生活を送ってきたから、あたしも昴も。





なのにさぁ。
ほんとびっくりだよ、相当時間があるんだろうね。




そりゃそうだよね、1年って……。






「いや、すごいよ昴。それでちゃんと成績伸びたもんね。」




そういうと、ふっと得意げな顔をして腕を組む。



「まあな。どこかの誰かと違って努力次第で変われるんだよ俺は。」





「はぁぁ!?」



「萌黄とは言ってないだろーが。」




「あたししか当てはまんないでしょうが!」




「まぁまぁ、落ち着けって。」



「落ち着けるか!」



きーっ、むかつく!


あたしだってねぇ、勉強すれはねぇ、テストで100点だって夢じゃないよっ!





…うんごめん、言いすぎた。
非常に言いすぎた。



…50も無理だね。えへへ。……




「はぁー…。」




今さらながら自分のバカさにびっくり。




「まあ落ち込むなって。俺だって最初はやろうと思ってなかったから。けど、極限にやることがなくなると人間はついに勉強に手を出すもんだな。」



人間全員かはわかんないけどね。







…そっかぁ、そっかぁ。




それであたしはどんどん差をつけられるわけね。




……まあ、それで昴が輝けるならいいんだけど。




少しでも前向きになってくれたらね。





あたしはバカなままでいいよ。






「…よし、そろそろ行くか。」




その言葉に、ほぼ反射的に立ち上がる。



「ほんと!?よっしゃ!」




足…は、まあ多少痛いけど何の問題もない。




お祭りお祭り♪


もう頭の中に謎の音頭が流れてる♪




「走るなよ、あわてんなよ。まったく、どんだけ楽しみにしてたんだよ。」



早速歩き出したあたしに、後ろから飛んでくる呆れ声。




「はいはいっ。」



ほら、早く!




昴のところに戻って、ぐいっと手を引っ張る。



「わかったってば。」




渋々言ってるようで、昴だってわくわくしてんじゃん、わかるんだからねあたし。





また2人、並んで歩き出す。



お祭り会場はすぐそこだ!




うひょーっ!




思わず走りそうになったら、強くて引き戻す昴の手。



「走らない。」




あ、はいはいすんまそん。…