心で叫ぶ、君のこと

思いっきり走り出す…はずだった。





足首が想定外の方向に曲がるまでは。





ぐぎっ。




いや実際はそんな音はしてないんだけど、まさにそんな感じ。




今の状況を簡単に言えば、

繋いでた昴の手をぐいっと引っ張りながら足をひねった。





「いっ…………。」





やばいやばい、痛すぎて声も出ない…。



思わずその場にうずくまるあたしに、焦ったような昴の声。


「萌黄、?大丈夫か??」



「う……。」



ううん、大丈夫じゃない。、すら言えないんですけど。



あーー、鈍い痛みが絶え間なく足を締め付ける感じ…。






近寄ってきて、すぐ隣にしゃがんだ昴は、あたしの足首にそっと触った。




「腫れてはないな。ちょっとひねっただけだからとりあえず冷やして様子を見るか。」





冷静冷静。さすがアスリート。





いやでもちょっと待て。

ちょっとひねっただけって、これが??



めちゃくちゃ痛いんですけど、こんなもんなの?



まあ、痛みは引いてきてるっちゃ引いてきてるけど。




でも歩けないよ?




もう声を出す努力をすることも面倒くさくて、涙目でただ昴を見つめるあたしに、昴は背を向けて手を広げだ。


「ん。」


え、?

おんぶってこと?

乗れと、?


「え…。」



「いーから早く乗れ。歩けないだろ?」



で、でも。


「お…もいけど…。」



あ、声出た。






すると、怒ったような顔だけがこっちを振り向く。



「んなこと気にしてられるかよ。ほら早く乗れ。」





えーー……

だけど痛いしなぁ。冷やしたいし、、。



乗るしかない、か…

「う、うん…。」


恐る恐る肩に手を乗せて大きな背中に乗っかると、思った以上に昴は大きくて、ちょっと安心した。




「わ…。」



ふーっと、状態が浮き上がる。



全くヨロヨロせずに、1歩1歩ゆっくりと揺れないように、だけどなるべく大股に歩いてくれる。



なんか。


ふわふわして気持ちいいな…。




あったかいし、、。



「痛くないか。」



不意に昴が声を出して、首のあたりがずんずん響いた。



「うん、大丈夫。ありがと。」




あたしの声、眠そうに聞こえたかも。


ていうか本当に眠い。。



「お前もやってくれるよな、ふつーあそこでひねるか?」



からかってるみたいな声の調子。



「もう、、自分でもびっくりしてるんだから。」



ほんとに、台無しすぎるよね…。




こんなはずじゃなかったのに。




「…ほんと、バカなことばっかするよねあたし。」





「まあな。いっつもお前のせいで困ったことたくさんあったしな。」


…今、話し出す前に鼻で笑ったでしょ、もう。




「…すみませんねーー。あたし、例えば何したっけ。」




少しの間。




「んー。幼稚園のお遊戯会の朝にせっかくの衣装を泥だらけにしたあげく俺にもかけたとか。」



うげっ。そんなこともあった。。


どーもテンションあがっちゃってさ、お遊戯会の前に幼稚園の庭で走り回ってたんだよね。



そしたら、雨降った後で水たまりがあって、そこに派手にダイブしたわけで。


そのときは楽しくて、そばにいた昴にもばしゃーってかけて、2人とも泥だらけで大変なことになったのでしたっていう…。



「あのあとさ、2人だけ普段着きてやったんだよね。ちょー浮いてた。」




「そーだったな。ったく、お前のせいで俺まで。」



「のこのこかかる昴も悪いでしょーが。」



「なんだそのへりくつは。それから、それ以外にも散々な目にあってきたし。」



「ほぉ?例えば?」



「片っ端から言っていいのか?幼稚園の昼寝の時間で隣にいたお前が漏らして俺にダイレクトにかかったこととか、小学校の修学旅行でお前が外国人観光客に話しかけたら訳がわかんなくなって、結局俺に全部押し付けて逃げたこととか、中学の定期テストでお前があんまり鼻風邪が辛そうだったからわからないようにさりげなくティッシュ渡そうとしてやったのに大声で叫んで感謝するから2人ともカンニング扱いされてめちゃくちゃ怒られたし点数無効になったこととか、高校の入学式でテンションが上がりすぎたお前が俺の手をいきなりつかんで振り回したら近くにいた校長先生に激突して打撲したこととか…」




「わーーたんまたんまたんま!!」




むりむり、その調子だと日付変わるくらいまでエピソードが出そう、、。




ここからじゃ昴の表情は見えないけど
、きっと勝ち誇ったような顔してんだろうな。



くーっ、恥ずかしいし悔しいっ。



「もう、全部最悪なのばっかじゃん!もっといい思い出ないの?」



「いやぁ、お前はろくなことしかしないもんな。」



ぬぁにぃ??



怒って暴れたいけど、、怪我人の身なので叶わず…。



まったく、こんなときに人の黒歴史さらして何が楽しいんだか。




…まあでも、昴と思い出話するのは楽しいし…もう何回もできないんだし…。






まあ、いいか。




それよりもあたしは、怪我をした浴衣姿の女の子をおんぶする浴衣姿の男の子


っていう少女漫画の王道的シチュを披露しているあたしたちをジロリジロリと見てくるお祭り参加者が気になります…。




うっわー、、
目を輝かせてる人、

殺意にも近い嫉妬心を燃やしてくる人、

浴衣が多少はだけてるのに目のやり場に困るみたいな大げさな反応してる人、エトセトラ……。





な、なんか、すみませんね、足、ぐきっと、やっちゃったもんで。へへへ。





昴はかまわずずんずん進んでいく。






しばらくすると、賑やかな屋台などが遠目に見えるあたりの静かな草っ原で、下ろしてくれた。




チョロチョロ聞こえる水の音は、川が流れてるからだと思う。



「今なんか保冷剤もらってきてやるから座ってろ。」



「あ、ありがとー…。」




重かっただろうに。


申し訳ない…。



屋台の方に走ってく昴をぼんやりと眺めながら、よっこらせと向きを川が流れてる方に変える。





はぁ……星が綺麗だなぁ。






急にロマンティックなこと言ったけど、普通に目の前に広がる夜空についての感想を述べただけで。




ああでもそれにしても綺麗。


お祭り日和って感じなのですかね、?


うん。







今まで、色々あったなぁ…。




最近はバタバタと忙しすぎて、まともに休んでなかったかも。


心がね。




昴の衝撃の告白から2ヶ月くらい。







ということは、あともしかしたら1ヶ月しかいられないってこと。






…でも、こんな空見てたら嘘なんじゃないかとか思っちゃう。





そんなわけないじゃんって、




言ってほしいな……、





いつまでもそばにいるって…





言われる時はもう、こないのかな。





空…。

は大きいよね、とんでもなく。


この世界は、空にフタをされてるんじゃないのかな。


なのに、昴は、消えていく。



どこに行くんだろう。


昴は、時間逃れが変わるだけたがら場所はそのままとか言ってたけど、ちょっと難しくてよくわかんなかった。




つまりは、昴はひとりぼっちってことなんだろうけど。




もし、この世界に昴みたいに亜時がある人がいたとしても、その人の亜時は昴の亜時とは違うみたい。



全ての人に同じなのは、常時だけ。




って、昴が遠くの景色を眺めながら言ってたことあったな。





全ての人に同じ……。





私は、ずっと、みんなと一緒に生きていくのに、昴はみんなと同じじゃなくなるってこと、だよね。






…星が綺麗だなぁ…。



そんなに綺麗なら、もっとたくさん夜空に浮かんで、昴を隠してくれないかな?