「昴ー?」
ガラガラッ。
…んー、教室じゃないか。
どこ行ったんだろ、ホームルーム終わってちょっと梨夏子たちと喋ってたらいなくなってたし。
でも靴はまだあるんだよねぇ。
職員室?そうかもしれない。
よっし、2階2階っと。
放課後の静まり返った階段を、声が聞こえないかよく耳をすませながら下っていく。
そのとき。
シュッシュッシュッと、上履きのこすれる音がする。
誰か近づいてる?
昴?
急いで階段をまた上り、踊り場から上を覗き込む。
「あれ、萌黄ちゃん?」
手すりの向こうからぬっと顔を出したのは、サラサラした赤髪がトレードマークの、楓くんだった。
「あ、楓くん?」
あれ、昴、楓くんといたのかな。
今一緒にいないけど。
「どうしたの?」
「あーっと、昴知らない?」
「あぁ、ごめんね、さっきから昴とグラウンドいてさ。ちょっと喋ってた。」
「あ、そうだったんだ。」
「うん、昴のやつ、萌黄ちゃんに言わなかったみたいだな。」
「あー…そうみたい。」
もう、一言言ってくれたら探さなくてよかったのに。
また心配しちゃうじゃん。
「あはは。じゃあ迎えに行く?俺ちょうど忘れ物取りに来てたから。」
ニコッと笑って、楓くんは右手のペンケースを掲げて見せた。
「うん、じゃあそうしようかな。」
そうして2人でまた階段を下り始めたんだけど、楓くんは隣でずっと楽しそうに口笛を吹いてる。
楓くんは、昴と仲良しだけど、昴とは結構違う性格。
楓くんはとにかく女子に優しい。
でも気持ち悪い感じじゃなくて、レディーファーストを常に実行してる紳士って感じ。
でも友達付き合いも良いし、昴とはキゴコロ知れた親友ってやつなんだと思われる。
そんな完璧な性格だから当然モテるんだけど、本人は身軽なままフラフラしてるのが楽しいみたいで、すべての告白をうまーい具合に交わしてきてるみたい。
だけどさ、断り方も相手が傷つかないような優しーいものなんだと。
どういうもんなんだろ。気になる。
そいで昴は、社交的だし明るいけど、割とキドアイラクっていうの?が、激しいかも。
嬉しい時は明らかに嬉しがるし、気に入らないことがあればガツンと怒るし、悲しい映画見れば100%泣いてるし、楽しい時は全力で楽しむし。
ほんと、単純なやつなんです。
単純で、バカで、だけど最近急に大人びてきて…。
あたしを置いていく。
「…ぎちゃん?萌黄ちゃん?」
気がつけば、不思議そうな楓くんが下の方からあたしの顔を見上げていた。
あ、いけないいけない。歩くの忘れてた。
「ごめんっ、」
慌てて追いついて、隣に並ぶ。
「昴のこと?」
「…はっ!?」
なにぃ、なんだって?!
「ふふ。わかりやすいなぁ。あ、そだ、昴とお祭り行くんでしょ?」
うわぁ、恐ろしい、楓s情報網…。
「う、うん、そうなんだけど…。」
「告白するの?」
「!?」
げほっげほっ。
な、な、な、なにをおっしゃってるのこのイケメンは!?
「な、ぬぁ、こ、告白とかっ!」
「え、しないの?」
「いや、あの、…す、するというか、しないというか…。」
突然、楓くんの歩みが止まる。
反射的に隣を見ると、眉をひそめた美しい顔がドアップで。
ひ、ひぃぃぃ。
あたし、昴でビクビクしてたけど楓くんの顔は免疫のカケラもないから、タンマ、タンマ!
「それ、どっち〜??」
さらに寄ってくる顔。
ううう、大きな目に吸い込まれそーっ。
「えっと、いやその、あの…。
し、したいんだけど…っ。」
「だけど?」
目見開かないで!ほんとに吸収されるっ。
「…で、できない。」
「ええ?なんでさ。今のままでも十分仲良しなんだからさ、告白くらい…あ!」
パーに開いた片手に、グーにしたもう片方をぽんっと打ち付けるひらめきのしぐさ、古臭いけどこのイケメンがやると最先端のモデルのポーズのように見えます…。
「わかったぁ、もう限界まで距離縮まりすぎて今さら恥ずかしいんでしょ?」
鋭っ。
何者、?
「ま、まぁ…、」
なんか恥ずかしくて、歩きを早める。
そんなあたしに余裕で追いついてにかあっと笑う顔は、ちょっと意地悪な感じで。
「やっぱり。そんなこったろうと思ってたよ。最近昴もなーんか変だしね。」
「え、昴が?」
「うん。なんかボーッとしてる時間が増えたし、うーーん…なんというか、焦ってる感じ?」
「焦ってる?」
うまい言葉が見つからない、て感じに楓くんが口を歪める。
「ん、なんかね、たくさん楽しもうとして今を楽しめてない感じ?」
?
「どういうこと?」
たくさん楽しもうとして今を楽しめない、、。
言ってることが逆になってるけど。
えーと、む…ムジュン…だっけ。
「えーっとさ…まぁ、見ればわかると思うよ。」
結局良い言い方が見つからなかったのか、楓くんはそう言って少し大股になった。
「あ、うんっ。」
