心で叫ぶ、君のこと







それから、どんな話をしたのかわかんない。


たぶん、昴が何か言って、あたしが相槌を打って、あたしが何か言って、昴が相槌を打って…みたいな感じだったと思う。


とにかく、あっという間に学校が目の前に広がってたんだ。


「お前、今日先帰って。」

校門をくぐりながら、昴が突然そう切り出す。

「え、なんかあるの?」

「…今日楓ん家寄ってくから。」

「あ、そなんだ。うん、おっけ。」

「…」

「…」

いや、なに、なにこの気まずい
雰囲気。

昴と楓くんなんて普段からしょっちゅう一緒にいるし、放課後家寄ったってなんも不思議じゃないじゃん。


落ち着けって萌黄。


「…あ、えっとさ、じゃああたしも梨夏子たちとマックでも寄ってくよ。」

「そうか。」

「新商品出たんだよねー確か。美味しかったら教えてあげるよ。」

「おう。」



教室まで、あたし達の会話はずっとこんな調子だった。


なにこれ。どうすればいいの。


泣きそうになって、必死に堪えながら教室に入ろうとしたら、後ろからグッと肩を掴まれた。


反動で振り返ると、真剣な顔をした昴が、あたしの肩の上の手の力を少し強めた。

「昴?」


「…もえぎ…」
「萌黄ーー!!」

昴の声をかき消し、突然横から佐奈のキャンキャンした声がすっ飛んできた。


目を見張るあたしと昴の前に、ドタドタと佐奈が走ってくる。


「おはよーっ。」

「…あ、おはよ、。」

あたしがちらっと昴を見たのに気づいて、佐奈が少し声のトーンを落とした。


「え?なに、どーかしたの?」


「…いやなんも。」

ぶっきらぼうに答えて中に入っていく昴。


いやちょっと待って…何言おうとしたの、?


「あれ、ケンカでもした?もしかしてあたし今奇跡的なタイミングで乱入しちゃった?」


「いや、大丈夫。うん、なんでもないから。」


「あ、そ?」

佐奈はちょっと納得してないみたいだったけど、すぐににかっと笑ってあたしを教室に引っ張り始めた。


「ほらほら。海央が前髪失敗したの梨夏子といじってたんだから早く!」


そしてあたしは、前髪が極端にアシンメトリーすぎる海央の前に連れてこられたわけで。

「あ、萌黄。ほらちょっとこれやばくない?自分でやったんだって。」


にまにましてる梨夏子。

「うるさいってば!ほんと気にしてるんだから見逃してよ!」

海央は珍しく顔が真っ赤っか。


いやまぁ…うまくいったとは思わないけどそこまででもないんじゃ?



だけどやっぱ左側は目にかかってるのに右側眉毛よりはるかに上だし。

……

「…ぷっ。」



「あああっ、もえまで笑ったぁぁ!!ありえなっ。」

激怒する海央の横でゲラゲラ笑う佐奈と梨夏子。


「ほぉらやっぱおかしいって海央。」

「おかしいの知ってるっつの!ああほんと今日しんどい。早退しようかな。」

「いいっていいって、似合ってるって。」

「おかしいって言ったばっかじゃないのよ!」

「いやぁ、うそうそ!あ、そだ萌黄の髪も切ってあげたら?」

「は?」

え、あたし?


「なんで?」

「あー、いいかも!だってほら萌黄お祭り控えてるでしょ?あと1週間だよ?海央の素晴らしいセンスで可愛くしてもらいなよ。」

いやいや何言ってん。
あたしも前髪を急傾斜にしろと?


「いや無理だし!自分のも無理なのに人の髪切るとかありえない。」

ほら海央もダメだって。

「はぁぁ?いいじゃん、もしヘンでも昴くんなら大丈夫だって!」

「そうそう!梨夏子が言うんだから間違いないって。」

「だぁからぁ、やだ!!このままで十分!」

「ええ〜…」

「あーあ…」



「…もえさ、」

残念がる梨夏子と佐奈の横で、急に海央が真剣な声色になった。

珍し、。

「…なに、?」


「なんかあったでしょ、今のもえめっちゃお祭り行きたくない感出てるよ。」

「え?」


やだなぁ、何言ってんのお祭り行きたいに決まってるじゃん。

昴と2人だし……。

2人だし………。


自分でも、だんだん顔が曇っていくのがわかる。


「え、そーなの萌黄?」

心配そうに覗き込む梨夏子に、平然と笑うことができなくて。


…わかってくれるかな。


「…なんかさ。あたし最近ダメでさ。」

「ダメ?どんな風に。」

海央はすっかり相談員風。


「…えっと…なんか昴にうまく話せないとか…。」


「ええ、なんで?」

無邪気に質問を飛ばしてくるのは佐奈。

「なんか、急に、あたし昴のこと…。」


「こと?」

ぐーっと前のめりになる海央たち。

ううう…。
言っていいのかわかんないけど…。



「…好きなんじゃないかって…思って。」

うわぁぁ恥ずかし。顔赤くなってるって絶対。