心で叫ぶ、君のこと



…また、早く起きちゃった。


ベッドの中、まどろみながらも無理やり体を起こした。



学校に行くのが怖い。

ううん、昴に会うのが怖い。



初めてだった。


昴に会うのに、怖いなんて感情がついてくるなんて。





「ほんとあたし、どうしちゃったんだろう…。」



声に出したところで、答えは返ってこない。



とにかく、行くしかないのだ。

休んでる暇はない。

昴にとっては、毎日が貴重なのだ。



大丈夫、今日は普通に振る舞える。

いつも通り、いつも通り。



ふぅー、はぁー。



何度か深呼吸したら、少し体が軽くなった気がした。









いつもより早めに玄関を出て、恐る恐る道路に踏み出す。





いた。





いつもより早い時間なのに。




そんな偶然に、なんの感情かよくわからないけど涙が出そうになった。






どうしよう。
声かける?



でも…





いや。





逃げちゃダメ。





向き合わなきゃ。






その時にはもう走り出してた。

どんどん近くなる背中。

ぽんっと押そうと思ったら、寸前でくるっと昴が振り返った。


「わっ!?」


瞬間的に近くなる、昴のびっくりした顔。




うそ、また…!



落ち着け、落ち着け!



「…よいしょっと。」

必死に平静を装って、体勢を立て直す。


そーっと見上げたら、昴は唇引き結んであたしを見つめてた。



えっと…


「…おはよう。」



「…おはよ。」



あああ、な、なんか話さなきゃ。


えっと、今日は早いんだね?
天気がいいね?
宿題やった?
それとも…


「おまえ昨日、」







思わず顔がひきつった。



「あ、き、昨日がなにか、どうしましたでしょーか…。」


「これ。」



そう言って、見慣れたイチゴの形のストラップを目の前にぶらさげた。


「あ、それあたしの…」


「昨日落としてった。道に。」


「え…、あ、ほんと?ありがと。」


な、なんだそんなこと…。


ややぎくしゃくしながら、ストラップを受け取る。


ストラップはちっちゃくて、もらうときに昴の指があたしの手に触れ…





なかった。



昴が、あたしの手から逃げるようにストラップを離したんだ。



あたしに触らないように。




……。




昴…。




ショックなんてもんじゃない。

なんか、心がえぐられた感じ。



やっぱりあたし、昴を傷つけた。


ごめんね。


ごめんね。


ごめんね。



心の中では何度も何度も大声で叫んでいるのに、口を開いても言葉が出てこない。


「、萌黄、?」

昴が歩きだそうとして、不思議そうに振り返る。

「おせぇぞ。ほら早く。」


そう言っても、あたしに近づこうとしない。



…もう、背中押してくれないんだ。



いっつも、うわってバランス崩すくらい、ぼんって押してくれたのに。



もう、ダメなんだ。



昴のその笑顔に、傷をつけてしまった。




思わず手の中のストラップを握りしめたら、あっけないほどもろく崩れていった。…気がした。