「おはよー。 萌黄?」




通学路に、昴はいなかった。





「…え?あ、おはよ。」





どうしたんだろう。





「もー、どーしたの?ボケーッとしちゃって。」






「いや、別に、?なんも。」







まさか…、もう…!?




「明らかに元気ないじゃーん?」


「…海央ごめん。!」

「え?」





体が勝手に動いてた。
唖然とする海央を置いて、廊下に飛び出す。





昴、昴、昴…!




学校中の教室という教室を片っ端から探す。




体育館、理科室、音楽室、美術室、家庭科室、1年の教室、2年、3年…






いない。


…もしかして!



そんな、早まらないで…!!







必死に手足を動かして、最上階まで駆け上がる。





「…昴っ!」






昴は、屋上の手前の踊り場に座っていた。







「…萌黄?」






…屋上、開いてるわけないじゃん。
何考えてんだろあたし。






「…もうっ…!」



ぺしっと、うつむいてる頭を叩く。




「いつっ…。」




「心配したんだから!なんで朝にこんなとこいんの!?」

「…ごめん。」

ごめんって…





「……久しぶり。」



「え?」



あ……そっか……。





ずぎゅん、と胸を打つ痛みをぐっと堪えながら、なんとか笑顔を作る。




「…うん………久しぶり。」



昴も、あたしと同じみたいな顔をして笑う。









「…俺さ、頑張ってみる。」



「え?」




「俺だって、本当にあと三ヶ月で消えるのかわからない。なってみないとわかんないんだ。だけど、もし本当だったとき、後悔したくない。」





そう言う横顔は、いつもより、なんか、透き通って見えた。
今この瞬間、ふわっと消えてしまいそうで、あたしはあわてて昴の手を握った。





「…あたしも!頑張るから!昴が後悔しないように、その、楽しくするから!」

昴が目を見開いてる。





…だから、

「だからさ、
…あたしに黙っていなくなっちゃダメだからね…?


頑張って…頑張って、ひとりぼっちでも…あたしのこと思い出してね…?」





おかしいな。今になって涙が出てきた。
視界がゆがんで、両目から落ちてくるしずくが止まらないんだ。




「…おまえ…、何で泣くの。」

そう言う昴だって笑いながら涙目になってる。




「知らないわっ…。もう…!」

「…ふっ…。あはははは…。」

「はっ…ははははは…!」


なんだかよくわかんなくなって、そのまま昴と笑い続けてた。