「はぁ…はぁ…。」

「あ、凛!大丈夫?」

「はい…。おはようございます。すみません、昨日あのまま寝ちゃって…。」

「おはよう。仕方ないわ。」

恵美と話していると恵美の背中越しにいた男性と目が合った。

「凛ちゃん、おはよう。昨晩のことは恵美さんから聞いたよ。大変だったね。待っておくから、落ち着くまで休んでおきなさい。」

「そんな!ご迷惑です。私は大丈夫ですので、撮影始めてください。」

この人は今回の撮影の監督だ。
気遣ってくれるは嬉しいが、人に甘えてばかりいたらこの世界じゃ生きていけない。

「大丈夫だよ。途中で倒れられたりでもしたら、それこそ参っちゃうよ。わたしも君の演技には期待してるんだ。せっかく生で見れるというのだから良い作品をつくるためにも、君には万全な体調で取り組んで欲しい。」

「凛、監督の言う通りよ。こうおっしゃってくださってるし、お言葉に甘えてみたら?」

「でも…。」

言葉につまってしまう。

「…じゃあ、すみません。お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます。」

私は一礼。
断るのは苦手だ。
監督と恵美、周りのスタッフの視線に負けてしまった。

(やっぱり、自分の意見を主張することは苦手だな…。)

「ゆっくり休んでおくれ。」

監督の笑顔に苦笑いしかできなかった。

(この業界はそんなに甘くない。普通なら演者が遅れたとしても、先に始めるのが普通…。せめて撮れるシーンから撮影するとか。)

特別扱いを受けてるようで…なんともいえない気持ちだった。