車椅子からズリ落ちて、でも、ギターケースは大事に抱えて、匍匐(ほふく)前進する軍人のように、階段に手をかけた。1段、1段、ゆっくりと上って行く。途中、生徒が物珍しいものを見るような目で見て、通り過ぎて行った。
「何かお手伝いしましょうか?」
そう言ってくれる、おそらく下級生の野球部員らしき男の子たちもいた。でも、私は、
「大丈夫です。自分で上らなきゃいけないんです。」
と訳の分からないことを言った。きっと、あの男の子たちは驚いたことだろう。でも、本心だ。私は私の力で上らなきゃいけない。できることは自分でしなきゃいけないというより、自分の力で上ってみたかった。
「私自身を変えるために。上らなきゃいけないのよ、十志子!」
自分にそう言い聞かせて、2階まで上り切った。まだ先は長い。息を整えて、それからまた上り始めた。1段、1段、ゆっくりと自分のペースで。
でも、腕の力で上るのは、物凄くつらい。手のひらを見ると、誰のかわからない髪の毛やホコリがついて、真っ黒になっていた。毎日掃除の時間があるのに、階段は、こんなに汚れているんだ。でも、私は車椅子に乗っているってことで掃除を免除されていた。やろうと思えばできることだってあったはずだ。
だから、文句は言えない。



