*はなside*


忘れ物をしたから、と、彼女は走り出した。


「……まったく」


どこまで素直じゃないのかしら。


「…ここまで世話してあげたんだから、あとは自分でなんとかしなさいよ」


先ほどよりも少し伸びた、自分の影を見て思う。

たぶん、高橋絆奈という女の子は。

今が一番、綺麗なんじゃないかと。

悔しいけど、まっすぐ前を見て迷いなく学校へ向かって走り出した彼女の姿は、何よりも綺麗だった。

だからこそ思う。


…上手くいきますように。


「私も、損な役回りね……」


海音…あなたがあの子を好きな理由、なんとなくわかったわよ。


いつからこんなに、お人好しになったのかしら。

子供の時から好きで好きで、私の手で殺してしまいたいくらい好きだった海音を、こんなに簡単に手放す日が来るとは思わなかった。

あの子が駆けていった道を振り返る。


「……しっかりやりなさいよ……!!」


じゃないと。