スイートルーム内にある露天風呂に浸かり、ぼぅっと闇の中に浮かぶ対岸の島の明かりを見ていた。


(……どうしてここに居るんだっけ?)


社長に連れて来られ、直接バスルームに運ばれた。
私が温泉に浸かれば寒さなんて平気…と、さっき強がってしまったからだ。

スイートルームの露天風呂には大浴場と同じ温泉が引いてある。
冗談っぽく「一緒に入ってやろうか」と社長に聞かれたけれど、全力でそれを拒否する私を笑い飛ばして、彼は「事故処理をして来る」と言い、部屋を出て行った。

何とか立てるようになった足を頼りにドレスを脱ぎ、全身の潮を落として露天風呂に浸かった。

胸元に垂らしていた長いネックレスは、いつの間にか海の中で落としていた。
無我夢中で泳いでいたから、流されたのも気づいてなかった。

明日、木本さんに会ったら折角の苦労を水の泡にしてごめんなさい…と謝っておかなくてはいけない。
私同様、社長の指令を受けて、朝からずっと駆け回っていたのだから。


そう言えば、あの海から助け出した子供はどうなっただろう。病院に運ばれた後は、恐怖で怯えていなければいいがーー。


いきなり波に足を掬われた時は心臓が止まるくらい怖かったのではないか。

幸いにも波が高過ぎることもなくて無事だったけれど、あのままもっと沖まで流されていたら、自分でも助けてあげられなかったかもしれない。