顎を肩に乗せて背負うような格好で体を巻き付けさせる。
そのまま潮の流れに合わせながら、ゆっくりと岸に向かって平泳ぎ。


子供の体が冷たい。
この水温では無理がないが平気だろうか。


「もう少しよ…頑張って…」


声を掛けながら思い出していた。
自分が泳いている時、同じように皆が声を掛けてくれたことをーーーー。




「もう少しだ!頑張れ!」


「もう直ぐゴールよ!花梨ー!」


「泳ぎきってくれ!大丈夫だから、そのまま進めっ!!」


「きゃー!花梨〜〜!ファイト〜!!」


いろんな叫び声を励みにしていたのだ。

あの頃の自分は、それを嬉しくもあり、重たくも感じていたーーー。



バチャン!と砂が指先に着いた。

泳ぐには浅過ぎる場所まで来たことがわかり、水をかくのを止めて立ち泳ぎに変えた。


岸には人の波が立っている。
この子のお母さんもホテルの従業員達もいるようだ。


間もなく足裏が砂底に着きだした。

指の間にくい込む砂の感触が、サラサラとしたまま逃げていく。
それを必死で踏み締めながら前へ進む。

着ているドレスの裾が脚に張り付き、思うように進めないけれど……。


水から上がるとぎゅっ…と抱き付く子供の体が重たい。
全身に力を入れたところを見れば体が寒いと感じたようだ。



「よく頑張ったね……岸に着いたよ……」