軽く手足を振って波へと向かった。
潮の変わり目は流れが少しだけ速くなる。

きっと速く流れる側から反対側の海流に向かって押し流されている筈だ。もしくはその海流同士がぶつかる辺りにいるかもしれない。


目指す場所を見定めて海に入る。泳ぐには冷たい海水は、一瞬冷やりとした氷の感触にも似ている。

だけど、私はこの海で何度も泳いできたのだ。
だから平気。怖いと思う気持ちだって跳ね除けてみせる。


膝よりも深い辺りまで来ると手で水をかいた。
久し振りの感覚に戸惑うこともなく体が泳いでくれる。



(何処……何処にいるの……)


前後左右を見回しながら必死で沖へ進む。

海流の押し流す力が強い。
私のような大人でも強く感じるんだから、子供はもっと遠くに流されいるのかも。


(お願い……無事でいて……)



「えいっ、もう…!」


バシャン、と水音を立てて沖へと向かって速く泳ぎだした。
波の勢いに乗って逆らうこともなく進んでいると……


「ごほっ!…ママ…!!」


数メートル先を流されている子供の声がした。
良かった。まだ生きているみたいだ。


クロールで前進し、子供の体を見つけて引き寄せる。

着衣水泳の練習をしておいて良かった。
救急の練習も嫌になるくらい何度もやってて助かった。


「大丈夫だよ。私の首に腕を回して」