「さっきまで波打ち際で遊んでいる姿があったんです。だけど、足を滑らせたのか転んで。その後、急に波が来て姿が見えなくなってしまって……」


「何だって!?」


「何処ら辺で!?」


私は駆け寄りながら海の方を見た。
丁度潮目が変わり始めている。
もしかしたら、そのせいで流砂が起こったのかもしれない。


「あの辺り。今丁度海流の波がぶつかってる辺」


指を差す辺りの潮目が変わりつつある。
あんな危険な場所で遊んでいたの!?



「マーメイドちゃん…!」


ラウンジの女子社員の声が響いた時、私は既にラウンジから海へ下りるドアを開け放していた。

社長の「花梨!?」と叫ぶ声が背後からした様な気がする。
だけど、今はそれどころじゃない。


海岸に下りるとヒールの高いパンプスは脱いだ。
素足になって波打ち際へ向かうと、子供の親と思われる女性がワァワァと激しく泣いている。


「子供が海に流されたんです!さっきまで姿が見えていたのに急に見えなくなってしまって…!」


ライトアップされた海面は日没直後でまだ明るい。
だけど直ぐに闇はやって来る。


お母さんは怖くて海には入れなかったみたいだ。
この潮目の変わる時に下手に海に入れば自分でも波に呑まれるかもしれない。だけど…


「大丈夫です。私が見つけてきます」