声が震えているのが変だ。
自分でも恥ずかしいと思うから余計に顔が熱い。


「社長じゃないと言っただろう」


「で、でも…」


ここは職場だから余計でも社長は社長だと思えてきてしまう。


「花梨は臆病だな」


小さく笑う姿までサマになる彼に胸がドンドンと鳴り響く。
まるで海鳴神社で感じた風の音くらいに、耳鳴りが大きく弾みそうで堪らない。


こんなに胸がキュンとするのに今日だけで終わりにするの?
そんなの出来る訳がないーーー。




「……潤也さん…」


どうか約束をするからお願い。
この次も貴方の名前を呼ばせて欲しい。


「あの…私……」


乗り込んでいたエレベーターのドアが開き、社長が私の方に振り向きながら外へと足を踏み出した時ーーだ。


「大変っ!あの子、見てっ!」


ラウンジの方から女性の声がしてハッとなった。
私は社長と顔を見合わせ、何事だろう…と向かった。


ラウンジの窓の辺りには人集りが出来ている。
お客様だけでなく、従業員達の姿もあった。



「どうした」


階段を小走りに駆け下りた社長は、一番前にいる社員に声をかけた。
振り向いたラウンジ勤務の女子社員は振り返り、目の前で子供の姿が消えたと話した。