「やっぱり不味そうだな」


それは幾ら何でも言い過ぎだが、確かに彩りが少ない感じがする。


社長は私の返事を聞かずにフォークとナイフを手にして食べ始めた。
味を確かめるようにしっかりと嚙み砕き、何かを思いながら食べ続けている。



「……花梨、冷めるぞ」


その合間に私にも食べるよう促した。
フォークとナイフを手にして口に運ぶけれど、何の味もしてこない。


さっきの社長の申し出は何だ。
また今日みたいに休日を彼と過ごすようにと言っていたみたいだったがーー。


今日みたいに観光案内をして欲しいという意味だろうか?
未だ知らない未知の食材を探す手伝いをしろということ?


頭が混乱したままデザートまで食べきった。
お昼の料理の方が余程美味しかった…と、後になって考えたくらいに印象に残らないフルコース料理だった。


社長はそのまま一階のラウンジへ行こうと提案した。
ラウンジにはまだ女子社員達が残っていると思うから気が引ける。

でも、こんな自分の姿を誰かに見せてみたい。
自分ではない自分が今は有るような気がして、社長の希望に沿う答えをした。


テーブルを立ってレストランを出ると、社長の腕が私の腰に巻き付く。
昼間よりも近い距離に胸が鳴り、バタバタと苦しい程に脈打つ。


「しゃ…社長……」