「ついでに言うなら素材も今一つ。地元にはいい物が色々とあるのに使いこなせていない」


「はぁ」


「お客様はきっとホテルの料理も楽しみにしているんだ。ただ景色が良くて温泉があるだけのホテルなら全国何処にでもある。…だが、そんな平凡なホテルに留まっていてはいけない。此処ならもっと良くなれる。それを今日は花梨から教わった」


「私から?」


私、何をした?
ただ社長と観光の真似事をしただけなのに。


「この町の良さも美味しい物も見つけられた。俺の見る目も少し…いや、かなり変わったと思う」


そうですか。…つーか、一体どんな目でこの町を見ていたんだ。



「花梨」


「…は、はい」


怪訝そうな思いを胸に抱いていたから心臓が飛び跳ねた。
社長は私のことを真っ直ぐな眼差しで見ている。

何を言うつもりなのかは知らないけど少し怖い。
今この瞬間からでも、いつもの暴君社長に戻りそうだーーー。


「次の休みも一緒に過ごしたい。出来ればまた時間を作ってくれないか」


「は?」


頭の中が真っ白になるというのは初めての体験だ。

社長の顔が思いがけず照れていて、私はその顔から目が離せなくなった。




「メインディッシュでございます」


そう言って同僚のボーイがメインの皿を手元に置いた。
お肉なんだけれども、やっぱり見かけが美味しそうには見えない。