「それじゃーですが……潤也さん」


名前を呼ぶと喉が乾いてきそう。
テーブルの右に置いてあるワインを一気に飲み込んでしまいたい気分だけれどーー。


「私はこの後、車の運転があるのでアルコール類は飲めませんが」


「何だそんなことを気にしていたのか」


「えっ」


「帰りなら岩瀬に送らせるから大丈夫だ。心配せずとも飲んでいい」


「だけど、明日も仕事があるし…」


「明日も迎えに行かせてやる。だから気にしないで飲めよ」


ほら…とグラスを差し向けてくる。
社長の顔を窺うように眺め、弱りながらもワイングラスを手にした。



「今日はありがとう」


優しい声でそう言われてグラスの縁がぶつかる。
キン!…という高い音に胸も弾み、「は、はい」と手短な返事をすることしか出来なかった。


緊張したまま前菜を食べ始め、メインとデザート以外までの料理を食べ終えた時だ。


「花梨、ここの料理を食べた感想は?」


いきなりそう聞かれ、何故そんなことを聞くのかと不思議に思ったけれどーー。


「そうですね…。味が締まらないと言うか、物足らない?って感じがします…」


そう言った後で、しまった…と慌てた。
仮にも社長の奢りなのに、なんて大それた発言をしてしまったのだろう。


「あ、あの…」


「同感だ」


「えっ?」