さして褒められないところを見れば、社長にとってはやはりこんな一時は日常なのだ。


「失礼致します」


ガッカリするのは身の程を知らない証拠だ。
自分はやはりただの田舎娘なんだ…と思い知った。


レストランボーイの同僚が引いてくれた椅子に収まると、私の向かい側にいる彼はワインをグラスに注ぐよう注文し、やっと正面に座る私に目を向けた。



「そのドレス似合うよ」


いきなりそれかぁ。
いや、これも社長にとってはきっと常套句なのだ。



「ありがとうございます」


一応褒め言葉として取っておこう。
明日からはこんな格好とも無縁な生活に戻る訳だし。


「木本というレンタルブティックの責任者は腕が確かなようだな。これなら新しい事業を始めてもやり甲斐がありそうだ」


「新しい事業?」


寝耳に水な発言を聞き返すと社長は「うん」と頷く。


「だが、これはまだ話せない。それよりも今日はお疲れ」


グラスに注ぎ分けて貰ったワインを掲げるようにして寄せてくる。


「社長、私は…」


車で自宅へと帰らないといけない…と言おうとしたら。


「今日は恋人として通すと言った筈だぞ、花梨」


一日中、何度も自分の名前を呼び捨てられているのに未だにそれか…と言いたげ。

私にはそれが非日常的なことでも、社長にとってはきっと何でもない日常の一部なのだ。