「マーメイドちゃんの髪って素敵ね。適度にボリュームもあるし、クセがあまり無いのも羨ましいわ」


お世辞を言いながら、木本さんはワックスを軽く髪に馴染ませてからヘアアイロンで毛先を緩く巻き直す。
捻りながらワンサイドに髪を纏めた後は、その捻った毛束の根元をキュッとピンで止めただけ。



「うん、我ながらいい出来栄えだわ〜。ねぇねぇ写メだけ撮らせて」


「ええ〜っ、私のですかぁ?」


困っているフリをしながら内心は満更でもない。
こんな感じに着飾ることなんて、これから先は無いと思うからいい記念だ。



「はーい、笑ってー」


ケータイのカメラに向かってぎこちない笑顔を作る。


社長は私を見たらどう思うだろう。
日頃はホテルの制服くらいしか着ないから驚くかもしれない。


(馬鹿……そんなことで驚く訳ないでしょ。社長はいろんな女子のドレス姿を見てきてるってば)


自分で思って呆れる。
自画自賛なんてしないで、ありのままの自分を見せればいいのだ。


(どうせ着飾っても今夜だけのことなんだし、こんな幸せな時間が長く続く訳でもない……)


虚しくなりながら着替え室を出た。

辛抱強く私が出てくるのを待ていたらしい岩瀬さんは、「お待たせしました」という木本さんの声に顔を上げた。



「これはこれは」