シュークリーム屋を出た後、社長は「今日一日付き合わせたお礼をする」と車に乗り込む前に言いだした。


「えっ…いいですよ。そんな」


今日の支払いは全部社長がしてくれたのだ。
私は安い物だから…とお財布を出したのに、これは自分の役目だ…と言って一切出さなくていいと断った。

こっちは社長の指令に従ったのだから、休日出勤の手当てみたいに考えておけばいいか…と思うが気が引ける。

なのに、この上お礼をするとはどういう意味だ。
何をするつもりかは知らないが、魔法みたいな時間を伸ばされても虚しいだけなのに。


「今日はずっとお支払いもして頂きましたし、お陰で私はお財布の中身が減らずに助かりました。だから、もうこれ以上は結構ですよ」


この先のことは望まない。
社長を潤也さんと呼ばせて貰ったことも、軽く触れたキスのことも、忘れられない思い出になるだろう。


「このままホテルの駐車場で別れましょう。明日からはまた上司として宜しくお願いします」


自分の車を運転して自宅に戻る。
別れた瞬間に魔法が解けて、裸足で家に帰ったシンデレラよりはマシな気分だ。



「俺が一緒に居たいからと言っても駄目か?」


吸い付くような視線と言葉にドクン…と胸が揺さぶられる。
真剣な表情をしているから冗談を言っているようには見えないけれど……。