マーメイドはホテル王子に恋をする?!

シュークリームを売っている店舗ではヤバかった。
中学時代からの同級生がレジをしていて、私と社長が中へ入るとニヤリと口角を上げて笑った。


「お昼に若松君から連絡あったよ。花梨が彼氏と一緒だったって」


注文したその場でカスタードを詰めるのがこの店の方法で、それを待っている間に言われたのがこの台詞。

おのれ若松…と心の中に刃が光りそうになる。
でも、レジをしていた中川由花(なかがわ ゆいか)は、本当にイケメンだねぇ〜と羨ましそうに彼を見た。


「王子様みたいだと聞いてたけど本当ね。名前何て言うの?」


チラッと姿を確認して聞く。
社長はレジから少し離れた場所にいて、棚に陳列してあるクッキーやドーナツを眺めていた。


「あのね、誤解しないで欲しいんだけど、あの人は実はじょ…」


「花梨」


ギクッとして肩が上がる。
タイミング良く名前を呼び捨てた相手を振り返り、呪ってやるぅ…と呪えもしないのに考えた。


「何ですか。じゅ、潤也さん…」


あー此処で彼の名前を口にする羽目になろうとは最悪だ。
照れ臭さが倍増して頭からも汗が出そう。


「ちょっとおいで」


おいでとかって言い方初めてじゃないですか?
いつもの社長なら「来い」だよね?


右腕を伸ばして手先を上下させるから仕方なく息を吐いて近付く。