マーメイドはホテル王子に恋をする?!

そこに所長と呼ばれる人がやって来て、私達は防護服みたいな白い格好で頭から爪先までを包んで施設案内を受けた。


社長は熱心に質問を繰り返し、何度も感心したように頷いていた。
施設を出る頃には自分の身分を明かし、さっきの若松君と同様、近いうちに是非また話を聞かせて下さいと頼んだ。


社長という身分にありながら自らが営業もこなすなんて凄いことだ。
グループの各ホテルで改革担当をしていた頃の習慣が、彼にはまだ残っているのだろうと思う。



「それじゃ次は花梨の目当てだったシュークリームでも食べるか?」


養鶏所を出ると私の目指していたものを最初からわかっていたかのように言われ、あちゃ…と照れ臭くなる。


「バレてたんですか」


情けない感じで認めたら、「そりゃバレるだろう」と笑い返された。


「夏ミカンソフトよりも美味いんだろうな」


「当然ですよ。此処のシュークリームはカスタードが濃厚で……」


話しだす私の顔を社長がニコニコしながら眺めている。
その表情に恥ずかしくなってきて、早く行きましょう…と踵を返した。


その途端、さっと肩に手を置かれて心臓が弾む。
ドキドキしながら顔を見上げると社長はそれに気づいたように見下ろしてくる。


周りからは羨ましいと思われるようなシチュエーション。
でも、これは今日だけのこと……。


きゅん…と胸が寂しそうに鳴った。
社長の思惑に嵌るな…と思いつつも、どっぷり嵌まり込んでいく自分を何処かで感じ取っていた。