ペラペラと同級生トークをしていたから暫く社長のことを放っておいた。
そのうち彩月の目線が彼の方へ向き、「誰?」と囁くからハッとして。


「あ…あの…ね」


恋人は今日一日だけのこと。
彩月には誤解のないようにホテルの上司だとバラしておきたかったのに。


「初めまして。小山内と言います。花梨の彼氏です」


社長がそう自己紹介をしたものだから、彩月は驚くよりも先に息を飲んでしまった。

目を丸くしたまま私を振り返り、その顔が「マジで?」と聞いている。

困った様に半分首を縦に動かしたら、もう一度社長を見直した。


「は…初めまして。花梨の同級生で山野と言います」


すっかり声が裏返っている。

わからないでもない。こんな場所にハリウッドスターみたいな美形が来る訳ないもの。


「一体何をしに来たの?」


ぼそぼそと聞き返してくる。
イケメンな彼氏を見せびらかしに来たのかと思われたら大変だ。


「実は施設内を視察したんだけど、いい?」


仕事上の関係で…と話せば、「そりゃいいけど…」と呟きながら上司のデスクへと向かった。

事務所の奥からは「マーメイドちゃんが…」と話す声が聞こえ、メガネを掛けたおじさんは席を立つとやって来て、私の顔を無遠慮に眺めた。
 
社長はそんなおじさんに施設見学をさせて頂きたいと申し出た。