それに此処の卵って美味しいんですよ。玉子かけご飯にしても黄身がとっても甘くて濃厚で。
とにかく行ってみましょう。シュークリームも売っていますから」


本当は養鶏所の施設よりもお目当はそのシュークリームだったりする。

中身のカスタードには此処の卵が使われていて、これがまた濃厚で美味しいのだ。


急に張りきりだした私に苦笑した笑みを浮かべ、社長はシートベルトを外した。
ドアを開けて出てみると、本当に臭いがあまりしない。



「不思議だな」


「ええ、私も養鶏所の方には初めて来ましたが驚きです」


シュークリームを売っている店舗には何度も足を運んでいるが、此処に来たのは初めてだ。

流石に知り合いなんていないだろうと思い、ニックネームで呼ばれることもない、とタカを括っていたのにーー




「うっそー!花梨じゃーん!」


事務所に行けば出てきたのは同級生の山野彩月(やまの さつき)さん。


「彩月…此処に勤めていたの?」


偶然だね〜と笑う彼女は、高校時代の友人だ。
バレー部のセッターをしていて、地元に就職するんだと聞いたことがあったけれど。


「えへへ。実はそうなんだー。高校を卒業する時はまさか養鶏所に就職するなんて皆には言いづらくってさ。
だけど、地元にいる連中にはバレていたの。花梨が地元に帰って来てシーサイドホテルに勤めていることも聞いてたよ」