月曜日の朝、社長は待ち合わせの場所として指定してきたホテルの玄関前に白い車を運転して現れた。
てっきりあの霊柩車紛いの車(リムジン)で来るのかと思っていたから正直少しホッとした。
でも……



(うげっ!)


よくよく見てみればBMWだよ。
この田舎で誰がこんな高級車を乗り回すよ。


(成金趣味のお坊ちゃんくらい!?)


そう言えば、同級生に海産物の加工品会社の息子がいたっけ。
あそこの家族は全員が一台ずつベンツを持っていると聞いたことがあるけれどーー。


(それと比べたらいけないのだろうけど、私にしたら大差ないと言うか…)


呆気に取られたまま、乗るのも忘れて見入っていた。
左ハンドルの席に座っている人は、パワーウインドウを下げ、サングラスを外しながら顔を覗かせた。


「ぼやぼやしてないでさっさと乗れよ」


相変わらず口が悪い。
金曜日の優しさはあの時だけのものだったのか。


「…は、はい」


やっぱり暴君なんだ…と思い直し、助手席側に向かい始めて戸惑う。


社長には乗れと言われたけれど、一体どこに座ればいいのだ。
助手席に…とは言わなかった。…ということは、太々しくそのドアを開ければきっと唖然とされるに違いない。

ここは市場調査に付き合う部下として、後部座席に座った方が無難かもーー