頭の上に手を置き直し、「わかったか?」と顔を覗かせる。

目ヂカラの強い顔がすぐ側にあり、今までになく心臓が跳ねた。


「は……はい!」


鼻声で答えると、社長の目尻が下がって口角が上がった。
吸い込まれそうな笑みに見惚れているうちに、彼は部屋を出て行った。



パタン…とドアが閉まり、ハッと我に返って部屋中を見回す。

スタンダードルームにはない筈の家具が置いてあり、やっぱり此処はホテルのスイートルームだと気付いた。


社長はホテルの近くに住む家を探していると聞いたことがある。
見つかるまでは、スイートルームに住むらしいとも聞いたこともあるけれどーー。



「…うっそ。本当だったんだ…」


唖然としたまま肌布団を胸に抱え込んだ。

もしかしたら、このベッドには社長が毎晩寝ているのかもしれない。それをまさか独り占めしている……?


「ぎゃーー!」


慌てて滑り降りて慄いた。
ドキドキする胸の音に気づき、ますます鼓動が加速する。


さっきは社長に謝られたような。
あれは、私の錯覚……?


「ああーーっ!」


叫びながら肌布団の中に顔を突っ込む。
頭の上に置かれた手の感触が、今もあるから錯覚じゃない。



「やだ、もう。変に意識するじゃない」


ドクン、ドクン…と鳴りだす心臓に鎮まれと言い聞かす。

さっきまで残っていた怖い手の感触は、いつの間にか跡形もなく消え去って行ったーーー。