「じゃあ怖い人なんですね」


見た目はパーフェクトなのに、仕事ぶりは暴君みたい…とつい本音と漏らしてしまった。


「あわわ、今のは聞かなかったことにして下さい!」


慌てて唇に指を立てると、岩瀬さんはクスリと笑いを噛んだ。


「大丈夫。それは皆思っていることですから。でも、潤也様は怖い人間ではありませんよ。人一倍ホテルが好きで、本当にハートの熱い方なのです。だから、それだけは否定させて下さい」


どうも、と言ってメモを手にフロントを去る。
岩瀬さんが社長なら私も怖いとは絶対に思わない。


(でもね〜)


目の前で采配を振るう新社長はどう見ても穏やかな人間には思えない。
田舎の現場監督にでも居そうな雰囲気で、目に付いたことの全てを変えようとしている。


「おいっ!そこの人間の顔をした人魚!」


「へっ?」


指を差しているのは小山内社長。
差されているのは、どうやら私らしいけれど……。


「あのー、私は人魚ではないです」


明らかに人間。だって足あるし。


「だけど、周りからマーメイドと呼ばれているじゃないか。マーメイドと言ったら人魚だろう」


この人って何?
私にはきちんとした名前があるのに。


「あの…」


名前教えてやるから覚えたら?という気持ちで声をかけた。でも、私よりも大きな声が戻ってくる。