「ゆっくりと話したい。とにかくホテルへ戻ろう」


頭から手を離した社長は、気の抜けている私の肩を抱いた。
ゆっくり足を運びだす彼に合わせ、頭がふわふわしたまま付いて行く。


「ネットを使って、前に居たホテルの悪い噂やデマを流し続けていた女がいたんだ。俺に解雇されたのが腹立たしくてやったと、任意で事情を聞いた際には警察で話していたそうなんだが…」


ホテルに向かう道すがら、社長はポツンポツンと話してくれた。
悪評やデマが流されていると知ったのは、こっちで改造計画をやり始めて直ぐの頃だったそうだ。


「本社グループから問い合わせがあって、こっちのホテルでの改造が始まったばかりなのに煩いなと、少しの間知らん顔をしておいた。
そしたらますます激化して、流石に抑えが効かないと思った本社から、一旦前のホテルに籍を置き直して何とかしろと任された。

…いつだって奴らはそうなんだ。面倒くさいことは俺にさせて、自分達は高みの見物。
こっちがどんなに努力して出来たって当然だろうみたいに思いやがって。全く……腹立たしいたら無いっ!」


ぎゅっと肩を握る指先にも力が入る。
この海辺のリゾートホテルを改革しろと言われた時も、最初はまたか…とやり切れない思いを胸に就任してきたのだそうだ。



「……だけど、この土地の人間は誰も変わってなくてホッとしたよ」