「小山内興産の一人息子なのよ。名前は確か『ジュンヤ』と言ったっけ」


「片山さん、ご存知なんですか?」


「まぁね。小さい頃、何度かこのホテルで会ってるし、全然知らない訳じゃないんだけど。…でも、彼が来たってことは、少し面倒なことになるかもね」


「面倒なこと?」


「いろいろと聞いたりしてるのよ。各ホテルの改革担当をしてるとか何とか」


「改革担当?」


何それ〜?


「まぁいいわ。どうせ今はホテル内を巡回中なんでしょう。帰って来れば会えるだろうし、マーメイドちゃんも自分の仕事に戻ってた方がいいよ。王子が帰ってきた時にフロントが空だとこっ酷く叱られるから」


自分もお土産コーナーの掃除を始めようと逃げ出す。
私は片山さんの忠告通り、自分もフロントの業務に戻った。


間もなく予約の電話が入り、それを受けながらメモを取る。
パソコン画面を開いて空室を確認し、お客様に案内を勧める。


頭の隅ではさっきのイケメンぶりが思い出され、思わずボォ〜としてくるから横に振り回した。


(集中、集中)


自分に言い聞かせつつ、後から会えるであろう「オサナイ王子」に思いを馳せた。