「……そんなの…私に聞いてもわからないよ…」
もう一度検索してみようと試み始める彼女達を尻目に、私は溢れてきそうな涙を見せないように隠し、そっ…とその場を逃げ去った。
社長との思い出が今、あっさりと泡のように消えていった。
私の胸に去来したものは、ただ苦いだけの思いと、潮水のように塩辛い大粒の涙のみだったーーー。
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社長が結婚したらしいという噂は、あっという間にホテル内の社員に広がっていった。
大川主任はそんな話は聞いていないと話し、直接社長に聞こうと連絡をしたが、彼は話し中なのか電話にも出ない。
念の為に…と本社のホームページも開いて見た。
そこには何のニュースも載っておらず、あのネットで流れていた文字が真実なのかどうかも不明なままで時間が過ぎる。
それでもほぼ確定的だよね…と皆が囁き合う。
誰もが祝福と言うよりかは落胆に近い顔色で、そつなく業務はこなしているものの、以前のような覇気はまるで見られない。
その中でも自分が一番落ち込んでいる。
がっくりと肩を項垂れ、ぼんやりとしたままフロントの業務につく。
表面的には笑顔を浮かべ、お客様には愛想よく振る舞うが、会話の内容は頭には入って来ず、胸の中にも響いてこない。

