水曜日の朝、弾むような気持ちと落ち込む気持ちとを抱えて出勤した。

社長と顔が合わせづらいな…と思っているのに、こういう時ばかり出くわしたりする。



「お…おはようございます…」


女子更衣室を出てフロントへ向かおうとしていたところだった。

社長室のある二階から階段を使って下りてきた彼と、バッタリ出会ってしまったのだ。


「おはよう。月曜日は有難う」


スマートにお礼を言われ、それは市場調査に付き合ったことですか?それとも子供を海から助け出したこと?と聞きたくなる。

ぐっと堪えるように胸に抱いたポーチを握り締め、「いえ…」と消え入るような声で呟いた。


社長は顔色も変えずに私の横を過ぎ去った。
秘書の岩瀬さんが一緒だったからそれも致し方ないだろうとは思う。

それを恨みがましく思ってはいけないのだが、あの濃厚な夜のことはお忘れですか?とも問いたくなる。


聞きたいことがあっても聞けない相手に恋をした自分がいけないのだ。
早く忘れてしまおうと思い、ブンブンと頭を左右に振りながら歩いた。


フロントへ行けば大川主任が夜勤明けの寝ぼけ眼で立っていて、「月曜日はご苦労様でした」と言うものだから、何かを知っているのかと変な勘繰りをして胸が弾んだ。


「い、いえ、そんな…」


馬鹿みたいに意識するのはよそう。
主任は子供を助けたことを言っているに違いない。